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三、進軍

 世界史で古代文明の発祥地は大河と密接な関係があるって習ったけど。この世界でも、国の大きさと大河は深い関係があるらしい。プリチュ王国もズア川という川を擁している。

 ズア川といえば、以前、私と王子とムルーが、海の民の助けで遡ってきたらしい、あの川だ。もっとも私が目覚めて見た川は、ズア川の支流の一つだったらしくそう大きくもなかったけど。

 そして、トーレ王子はズア川沿いに進軍している。理由は水の補給が簡単なことと――あと、川沿いには当然、街というか砦が多いので、それらを順次攻撃することで、ロッフ王をおびきだそうと考えたらしい。……今のところおびきだすことには成功してないけど。

 そして現在の戦場は、プリチュ城市から数えて五つ目の砦。ハーレ城市からそこまでは大体五日の行程にあった。そんなわけで、五日目の夕方にトーレ王子達と合流する予定で、第八大隊は移動している。

 で、その一日目の行程を終え、各人は休む準備を始めた。騎兵達上流階級は天幕を張って休むんだけど、その他はマントと毛布にくるまって野宿ということになっている。私は野宿組だ。まあ、日本の十一月よりは余程暖かいようだから、風邪も引かないだろう。

 そんなわけで、寝る場所を決めようと毛布を持って歩き回っていたら、

「リナ」

と、声をかける人がいた。リーヴ大臣だ。大臣は三ヵ月前から常に翻訳機をしていてくれるので、話が通じる。

「リーヴ大臣、馬をどうも有難うございました。何か……分不相応な程、いい馬を頂いてしまって……」

 そう言ったら、大臣は言った。

「分不相応、とは思わんよ。――リナは、ずっと剣術も弓術も馬術も、それから、王妃とはこの世界の学習を、更に夜中にも……先人の落とし物を使いこなす訓練、かな、に、余念がなかっただろう?そうして一生懸命、自らを鍛え上げて、しかも成果を上げ続けてる人間には、相応だ。――いや、もっと素晴らしい馬でないとふさわしくないかもしれんな」

 いや、それはいくら何でも……誉めすぎってもんですよ。それにしても……夜中にがたごとやってたの、気付かれてたのか……。

 大臣は続けて言った。

「ところでリナ。もしかして野宿するつもりか?天幕を一つ提供するから、その中で休むといい。こう言っては何だが、その、危ない、と思うぞ」

 危ない、と言ってくれるその意味は、わからなくもないんだけど。――だって、この隊に女の子って私一人なんだもんね。風体が変でも構わないからちょっかい出そう、という奴の一人や二人、いるかもしれないもんね。

「でも馬を与えて頂いただけでも特別扱いなのに、この上そんなことまで面倒見て頂くわけにはいきませんから」

と言って断ったけど、まだ大臣は「しかし……」と渋っていた。で、私は言った。

「ここで大臣にかばってもらっちゃうと。この先もずっとかばって頂かないとならなくなっちゃいますから。この際、最初にどうにかしときます」

 そうしたら私の意図をわかってくれたらしく、大臣は

「そうか」

と言って微笑んだ。

「だが、どうにもならないようなら、私の天幕はあれだからな、逃げ込んでくるといい」

 リーヴ大臣の天幕は……ほかのより一回り大きい、あれか。

「ご好意、有難うございます」

とお礼を言うと、大臣は天幕に向かって歩いていった。

 さあて。大きな口たたいちゃったけど、どうやって「どうにか」しようかなあ。ま、手段は一つしかないよな。


 夜も深くなってくると、ほかにすることもないので、さすがにみんな寝静まる。

 私も大臣の天幕からあまり離れていない所の焚火の近くに陣取って、毛布にくるまって横になっていた。

 さて。寝静まってるはずの人々の中からむくっと起き上がる気配が上がる。気配で数えて……うーん、十人はいるかな、物好きが。

 その物好きは、みんなで結託してるらしく、輪を縮めるようにして、私に近付いて来つつあった。

 逃がさないように、と輪を作ったんだろうけど、甘い。

 ……リーヴ大臣が私を第三小隊に入れたのにはちゃんとわけがあるのだ。小隊長が、私の髪やら性別やら、それにろくに喋れないということにもこだわらない人だということだ。その上、面倒見がいい。だから私は、ちゃんと教えてもらっているのだ。戦場での戦い方のみならず、一人で複数を相手にしなきゃならないときの戦い方まで。

 一人で複数を相手にする時は、最初に一番強そうな奴をどうにかすること。

 で、近寄ってくる相手の気配から、一番強そうで、この面々のリーダー格らしいのをまず見当付ける。

 それから、寝たふりをしつつ、そいつとの距離をはかる。 一、二、よし!

 私は突然毛布を蹴飛ばして跳ね起きると、既に抜いていた剣を手に、そのリーダーっぽい奴に向かって、走った。

 突然のことに驚いたらしく、そいつらは足を止めた。そしてこの世界においてはやたらめったら優秀な私の足は、そいつらが我にかえる前に、そのリーダーらしい人物の近くまで私の体を運んだ。

 その人物は、さすがに私が強そうと当たりをつけただけのことはあって、ほかの面々とは違い、私が辿りつくまでに、剣を構える位のことはした。

 しかし。まともに立ち合う気は私には、さらさらなかった。そんなことしたら、多勢に無勢ってもんじゃないか。

 大体、目的は、こいつらと戦うことではなくて、もう手を出そうとは思わないようにしちゃうことにある。

 ――私は、地球では垂直飛びで50cmちょっと位しか跳べないけど、この世界ではやたら運動神経がいい。おまけに一応、助走もつけた。それにこの場合問題になるのは手の位置でなくて、足の位置。で、足は飛ぶ際に折り曲げて上げることも可能。……ていう条件を加えると、今の私は何と、人の頭上くらいは軽く跳び越えられちゃうんだなー。

 というわけで。私はそのリーダーらしい奴の前で踏み切ると、そいつの頭上を越えて、反対側に降り、そいつの背後を取って、首筋に剣を当てた。

 ここで脅し文句の一つも言いたいところだけど、いかんせん言葉が……。だからしょうがないのでにっこり笑ってみせた。

 それはそれなりに脅しの効果があったらしく、周りの面々は、その頃になってやっと、剣を構えていたけれど、構えたまま、じりじりと後ずさった。

 そして、私が脅してる、その本人が言った。

「何をしてる!さっさと剣をしまわねーか!」

 そして、自ら剣を放り投げて敵意がないことを示した。

 ……このくらいびびっていただけば、脅しとしては十分かしら、と思って、剣を引くと、その剣で脅されていた張本人がいきなりくるっと向き直った。そいつは、ムルー程ではないけど、結構な長身なので、いきなり向き直られたりすると、ちょっと驚く。まあ、だからと言って、隙を見せたりはしなかったけど。それでそいつは何をするかと思ったら、突然その場に土下座した。そして曰く。

「動きに惚れました!弟子にして下さい!!」

 えええ!どういう展開だよ!

書き溜めてあった分が……これで最後です。最後なので、つい投稿をためらっていたのですが(そして更新が遅くなったのですが)、この投稿前にためらおうが、投稿後にためらおうが、結果は変わらないので、投稿することにします……。


この期に及んで新キャラです。いや、この後にもまだ新キャラ出ますが。……その子を出すのを楽しみに書こうと思います!

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