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二、ありそうになくてもある国の

 先程の男が、手に何か機械らしき物をのせて戻ってきた。どうやら、私の剣幕に恐れおののいて逃げ帰ったというわけでもなかったらしい。


 ふむ。さっきは混乱してたせいか髪の色にしか気付かなかったけど、こいつってば服装も変だ。ファンタジー系の漫画あたりで兵士が着てるような服だもん。少なくとも現代服じゃあない。……まさか、これが今のはやりだってことはないよね。私、流行には疎いけどさ……。


 その男は、手のひらの上の、四つの機械のうち、二つを檻ごしに私に渡し、残り二つを慣れない手つきで自分の耳にはめた。そして、どうやら私にも同じようにしろ、と身振り手振りで言ってるようなので、私も両耳にはめた。感じとしてはイヤホンに似てる、かな。イヤホンにひもがついてなくて、かわりに金具がついていて、その金具で耳たぶにとめるようになっている。



「女、わかるか?」

と、その男の声が日本語になって聞こえた。

 どうやらこのイヤホンもどきは翻訳機らしい。便利なものだ。こんな物がいつ世の中に出回ったんだろう。通訳さん可哀相に。失業するな。


「おい、女」


 ……女、などと呼ばれてむっとしたので、ぶすっと答えた。

「何よ、聞こえてるわよ」


「お前は魔だな?」

 思わず、一瞬絶句。


「……あんた、頭大丈夫?何をどうしたら、そーゆー滅茶苦茶な発言が飛び出すのよっ!」


「魔じゃないというのなら、言ってみろ。どこの国の者か、何故王子の前に現われたか、どうやってあんな風に突然出現できたか」


「――出来るだけ忠実に答えたげるわよ。私は日本国ってところの者で、あとは知らない」


「……それのどこが忠実なんだ?!」


「知らないもの、知らないって答えんのが一番忠実でしょうが!大体、ここがどこかすら知らないっつうのに。――ま、言語からいっても、王子なんてのがいるらしいことからいっても、日本じゃないらしいけど?」


「ここはプリチュ王国の王宮の地下牢だ。お前はいきなり中庭にいた王子の目の前に現われた。それで王子の護衛をしていた俺がここに運んだ」


「ああそう。そりゃ御苦労様」

と、私はぷいっと横を向いた。こーゆー事態の起こり得る可能性を、もう一つ思いついたからね。――だけど、わざわざ自分ちの布団で寝ていた私を起こさないように運んで牢の中に入れて、こーゆー大がかりな芝居をやるような心当たりは、ない。

 だけど、私がどこかの王子様の前に突然現われた、なんてことを信じろって方が――


 でも、現実・らしい。

 あううっもう開きなおってやる!(もう既に開きなおってる気もするけど)


「おい、女」


「何よ、女女ってうるさいわね、男。確かに私は女だけど、ちゃんと松浦里菜っていう固有名詞があるんだからねっ!」


「まつうらりな?舌を噛みそうな名前だな……。不便このうえない」


「呼ぶ時は里菜でいいの!松浦は家族名称なんだから。もっとも家族名称で呼ぶ人の方が、日本じゃ多いけどね」


「ややこしいな。――おい、リナとかいうやつ。お前は、そんなのがあるわけがないとすぐわかるような国名でも、一応答えた、ということは、自分が魔だと素直に認めるつもりはないんだな?」


「魔じゃないんだから、素直に認められるわけないでしょうが!それに日本っていう国だってありそうになくてもあるんだから仕方ないじゃないの!」


 大体、プリチュ王国なんていうのの方が聞き覚えないわよ。


「――お前があくまでそういう態度をとるのなら、王の御前に連れていくよう、命ぜられているのだが」


「あっほんと?私、王様って会ったことないから会ってみたい」


「……おい、ロッフ王だぞ?人なら誰でも、その顔を見るだけですぐさま死に至り、魔ですらひれ伏すと言われる、ロッフ王だぞ?――この世界の者で知らぬ者など、生まれたばかりの赤ん坊くらいのものだぞ」


「……私知らないよ、そんな王様」


「……お前、赤ん坊か?さもなくばこの世界(テーアリ)の者でないか」


 へっ?今、この世界とテーアリってのが二重奏になって聞こえたぞ。――ってことは、「この世界」イコール「テーアリ」っていうもの、な訳?……私の感覚じゃ「この世界」っていうのは……えーっっ。


「ちょっと待った!ここってもしかして地球ですらないわけー?!」

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