一、鍵つきの部屋の中の錠つきの檻の中で
十秒ほど目をつぶってみた。……開けた。
うーん、見間違いではないらしい。
ちょっとほっぺをつねってみた。痛い。
うーん、夢でもないらしい。
そうだ、それに考えてみれば私って、ほっぺたをつねるって事を思い付くって事自体、現実だという証拠だっていう持論の持ち主だったっけ。っていうことは……やっぱりこれは現実なんだ。
私、松浦里菜。高校三年の十七歳。――万が一、罪を犯したりしていても、十分少女Aで済む年齢。
なのに、この状態はなんなんだ~~。
頭を悩ませていたら、足音が聞こえた。それとともに一つの、疑問解決策が頭に浮かんだ。ここに来る人に尋ねればいいんだ、という、ごくごく単純な解決策。
足音は、ますます近付いて、この檻のある部屋のドアの前で止まった。
ドアの鍵を開ける音がし、――けど、なんていう厳重さだろう!檻には錠、部屋には鍵。私は余程の凶悪犯なんだろうか……。――そして人が入ってきた。
……なんだ?おい、私は髪を真っ青に染めた奴なんか趣味じゃないぞ!大体、そんなど派手な頭した奴が公職についていいのか?……と、あれ?公職じゃないのかもしれないなあ。
私は今まで、私が悪人ってケースしか考えなかったけど(だから檻の外の人は公務員だろう、と思ったんだけど)、反対のケースも考えられるわけだ。――つまり、私を檻に入れた人のほうが悪人だってケース。けどうちは身代金目当てに誘拐されるような金持ちじゃないし、金目当てじゃないにしても――あの後生楽なうちの両親が、子どもをさらわれる程恨まれてるとは思えないし。ましてや私は何かの事件の目撃者とかでもないし、ただ家で寝てただけなのに人質にとられたわけでもないだろうし。……うーん、やっぱり訊いてみるのがいちばん手っ取り早いわ。
で、声をかけようとしたら……閉口してしまった。何故か、というと、部屋に入ってきた人(どうやら食事を持ってきたらしい)が、いきなりもんのすごい早口で喋り始めたから。――それもどこのなんだかわからない言語で。
――何を言われているか、はわからない。けど悪口を言われてるのはわかる。人間なんてものはわりかし悪口には敏感なものらしいしね。大体、あの顔を見て、誉めているんだ、なんて言われても誰が信じるもんか!
全く。これで唯一の解決策もダメになっちゃったじゃないか!
あ、だんだん腹がたってきた。勝手に閉じこめられて、理由も教えてもらえず、その上、なんで悪口まで言われなきゃならないんだ!おとなしく聞いてることはない。叫んでしまえ!
「わけのわからん言葉で人の悪口言わんでくれ!!!」
向こうにもこっちの言葉は通じなかったに違いないがあまりの剣幕に恐れをなしたのか、その男は檻の向こうに食事を置いて、さっさと退散した。
食事っつったって、そんな大したものではない。パンらしい固形物と木の器に入った透明な液体が、木製のお盆にのっかっているだけ。
うーん、私、ロールパンの類って焼かないと食べられないんだよね。食パンなら焼かなくても何とか食べられるんだけど。
だからこの液体だけいただこう。――多分水だよね。変なもん入ってないだろうなぁ。
で、檻の隙間から手を伸ばして器を取って、ごくっと一口。――あら、この水おいしいわ。薬くさくないというか。
もう一口、ごくっ。
それにしても、一体ここはどこなんだろう?
序章をくっつけていましたが、元の形の通り分割しました。