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七、移動

……サブタイトルにかなり苦労しているのが我ながら見て取れます……。

 皆の所に戻ると、食事は既に終わっていて、みんな、片付けたり、出発の用意をしたりしていた。ムルーはテントをたたむ手伝いをしていて、王子は自分のとムルーのと私のと、三人分の荷造りをしていた。――何か、王子とかっていうと、おぼっちゃま育ちで何もしないような気がするんだけど……働き者だよなあ、この王子サマは……。

 レスティさんは草原の民の人と話し始めたので、私は彼から離れて、王子の横に座り込み、一緒に荷造りをした。

「リナ」

と王子が言った。

「何か――すっきりした顔をしてますね。……良かった」

 そう言って、にっこり笑った王子の顔は晴れ晴れしくて、心配させてたんだなあ、と反省すると同時に、ちょっとどきっとした。

『あの王子には何か、人をひきつけてやまないものがある』

 これはレスティさんの台詞。だけど私もそう思う。王子の輝かしい瞳は、きっと天性のものだね。私がたとえ、王子に助けられたんじゃなかったとしても、私は王子についてきたんじゃないかなって気がする。ムルーが王子についてきたみたいに。

 あっという間にテントは片付けられ、そしてレスティさんが言った。

「出立するぞ!行き先は――ハーレだ」


 ムルーは馬を一頭借りて王子と乗った。王子もちゃんと一人で乗れるんだけど、馬の数の都合で相乗りになったというわけ。

 私は何と、レスティさんと一緒に、一角獣(ラオス)のレイルギーナに乗せて頂いているのであった。――じいやさんが「身分もわきまえず!」って感じで睨んでる視線が痛かったけど。

 王子から聞いた話だけど、一角獣は誇り高き獣で、自分で認めた人しか、その背には乗せないらしい。私が乗せて頂いてるのは、レイが認めた人であるレスティさんがレイに「お願い」してくれたからなわけで……。いやはや。つくづくすごいものに乗せてもらっているなあ。

 しかし、走っている馬に乗っているのは、ど迫力。ジェットコースター並のスリルがある。スカート姿だから、横座りよりほかにしようがなく、その体勢でレイ君にしがみついている。私の後ろにレスティさんが乗っていて、手綱を握りがてら、私を支えてくれてるんだけど、それにしたって、ちょっとこわい。私、馬に乗ったの初めてだもんな。バイクにも乗ったことないし。自転車とは比べものにならない速さで風が後退していく。はっきり言って、痛いわ。

「リナ」

 レスティさんが後ろから叫ぶ。

「慣れたか?」

って乗馬に?うーんと、

「ええまあ」

「それなら――とばすぞ!」

 いっ今まではとばしてなかったっていうの?びえ~~~!!


 で、その日の午前中は休憩なしでひたすらぶっとばし――早めの昼食とあいなった。

 さっとレイ君から飛び降りたレスティさんの手を借りて、ラオスから降りる。

 ぐたっ。つ、疲れた――。も、お昼いらない……。お尻は痛いし……。

「随分、ばてたようですね、リナ」

 座りこんでる私を見て、王子がそう言った。

「……王子は元気だね……」

「久しぶりの遠乗りでむしろ気分が良くなりました」

 あら、そう……。

「リナ。気分悪そうだが、無理にでも飯は食え。――お前、朝も一口も食べてないだろ」

 あら知ってたの、ムルーさん。

「まあしかし、初心者にしては頑張ったじゃないか。リナがいるからどうかと思ったが――かなり進めた。この分だとぼちぼちハーレ国内の人家が見え始める。――で、食後、三時間もとばせば、ハーレ城市だ」

「本当に?!」

 レスティ氏の言葉に、トーレ王子は歓喜した。

「ああ」

 ――ということは、また馬に乗るのね……。下手に胃にもの入れると、吐きそうな気もするが……うーん、しょうがない。御飯を食べよう。

 バクッ。ムシャムシャ、バクバク、ゴクン。

「リナ……。何か、意地になって食べてませんか?」

 ……当たりです。


 しばらくの食休みの後、レスティさんが言った。

「出発する!乗馬しろ!」

 それで私も腰を上げて、荷物をレイルギーナにくくりつけようとした。

 そうしたら、レスティさんがふと気付いたように言った。

「リナ。そろそろ人家があるから――その髪は少々まずいぞ」

 髪?――言われて思わず、左手を自分の髪の中にうずめた。――そういえば今日は朝から髪の毛隠すの忘れてた。

 というわけで、レイにくくりつけかけていた荷物をもう一度手にとって、中から布をだそうとしたら、レスティさんが再び口を開いた。

「昨日かぶっていた布をかぶるつもりか?」

 ほかに布持ってないから頷くと、

「普通、かぶり布にするのは、ハーレ織程度の厚地の布だぞ。昨日かぶっていたような薄地の布では不審の元だ」

 ふうん。じゃレスティさんが昨日、私の頭に目を止めて、いきなり布を剥いだのもそれを変に思ったせいかな。

「でも、布、ほかに持ってないんだけどなあ……」

と思わず呟くと、レスティさんはおもむろに自分のマントを止めていた紐をシュルッと抜くと、そのマント布を私に向かって放った。――その布は、私の頭の上からばさっとかかったので、私は一瞬視界を失い、慌ててそれをどけた。その時には既にレスティさんはマントなしで馬上の人となっていた。うーん、行動が素早い。

 で、レスティさんに向かって訊いてみた。

「レスティさん?」

と。その答えは、

「その布は一応ハーレ織だからな、それでもかぶっていろ」

というものだった。それでかぶってみると、その布は、重みがある分、昨日の布より頭に馴染んだ。どうやら確かに、かぶるにはこの布の方が適してるようだ。

 ただ問題は、レスティさんの布を借りてていいのかなってことなんだよね。貸してくれたんだから借りてていいんだろうとは思うけど――じいやさんの視線が余計痛くなったような気がする……。

 痛い視線を背中に感じながら、レイの背に荷物をくくりつけ終わると、レスティさんが、

「支度、出来たか?じゃあ」

と言って左腕を差し出してくれた。

「あ、どうも」

 言いながら私はレイの上に引っ張り上げてもらった。よっこらしょのどっこいしょっと。何とかレスティさんの前におさまる。そして――。

「出発!」

 レスティさんの声で、草原の民は速やかに移動を開始した。

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