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六、一角獣《ラオス》

 考えなくちゃいけない、私は。人が死ぬ、ということ。戦争というもののこと。そうして、私はどうするべきか、ということ――。


 追手をやっつけたからといって、ゆっくりしてるわけにもいかない、ということで、さっさと朝食が始まった。私はちょっと、あんなシーンを見た後だけに、食べる気にならなくて、人が御飯を食べている間、考えていた。

 戦争なんて、起こしていいんだろうか?――いいわけはない。これは私が所属していた世界の常識。でもここはそこじゃない。そこの常識じゃ測れない。

 ……戦争を起こさなかったら――プリチュ王が世界征服を始める。

 世界征服をやめさせる――これはきっと正しい。でもその手段として戦争を用いるのは……正しいんだろうか?

 そもそも、私は人を殺せるんだろうか?

「リナ」

 御飯を食べ終わったらしいレスティさんが、声をかけてきた。

「馬の様子を見に行くのだが、少々付き合わぬか?」

 馬?――あ、そういえば一角獣がいるんだった!あれは是非もう一度見たい!

 というわけで、まだ御飯中の、王子やムルーや、他の草原の民の皆様方をおいて、私達は馬を見に行った。

 お馬さん達は、テントの裏手の木々につながれていた。でも一角獣さんがいなかった。どこだろう?と思ってきょろきょろしていたら、一角獣は一○○メートル位離れた丘の上にいて、遠くを眺めていた。

 陽を浴びながら、まっすぐに立っているその優美な姿に、私は見惚れた。……なんて綺麗な生き物だろう――。

 私の隣に立って、同じ様に一角獣を見ていたレスティさんが、

「レイ!」

と呼び掛けると、その一角獣はこちらを向き、レスティさんを認めると、丘を駆け下りてきて、レスティさんの側で止まった。――走る姿は、更に綺麗だなあ……。

 近寄ると、馬というものがけっこう背が高いことがわかる。乗るところが私の目の高さ位。地球の馬もそうなのかなあ。テレビとかで見たことあるだろうけど、わからないものだな……。

 レスティさんがものすごーく優しい顔をして右手を差し伸べると、一角獣は首を曲げて、角をその手にすりよせて、すごく倖せそうな顔をした。

 ――妙に入りこめない雰囲気で、黙って見てたら、レスティさんが話しかけてくれた。

「リナ。一角獣(ラオス)を見るのは初めてだろう?これは今では数少ない生き物だから」

 ――一角獣とラオスが重なって聞こえるんだから、一角獣はここではラオスっていうんだろうなぁ。

「まぁ私は、馬さえも初めて見たようなものですし……」

と答えると、レスティさんは心底驚いたという顔をした。うちの世界では交通手段は馬じゃないんだもん。

「これはレイルギーナという名で、私の持ち馬だ。――草原の民の馬は元々その辺の馬よりも脚力があるが、一角獣は更にパワーがある。ただ、近年数がめっきり少なくなったうえに、草原の民にも一角獣に乗れるだけの力量のある奴が減ったので、一角獣を乗馬にしている人間はほとんどいない」

と、レスティさんがレイルギーナ君の紹介をしてくれた。うーん、綺麗な奴だ。さわりたい……。――と思っていたのが通じたのか、レスティさんが言った。

「元来は気が荒いが、私が側にいる時なら平気だ。さわってみるか?」

 で、首を曲げた状態のレイルギーナ君に触らせていただいた。首の辺りと、その後ろのたてがみの辺り。たてがみは、なんていうか、ふかふか?一本一本はけっこうかたいんだけど、まとまると何かふかふかというかふわふわした感じ。

「他の馬はつないであるのに、レイルギーナは放し飼いなんですか?」

と訊くと、レスティさんはクスッと笑って言った。

「レイは我が友、我が半身。つなぐ必要など全くない」

 そしてレイ君をなでる。――何か、妙に幸せそうなカップルだなあ。(これはカップルとしか言い様がない)

「ところでわざわざ王子達と引き離してここまで連れてきたのは、何もレイを紹介するためだけではなく、少々訊きたいことがあったのだが」

とレスティさんが真面目な顔になって言った。――手は相変わらずレイをなでていたけれど。

「何ですか?」

「プリチュの兵士達を殺した時のことだが――」

 あ、いかん。一角獣にかまけて忘れてたわ、考えなきゃいけないことを。

 レスティさんは続けて言った。

「仮にお前が繊細なタチだというのを認めるとしても……」

 ……レスティさん、その言い方って何かしら……。とてもせんさいとは思えないって言いたいのかしら。

「あの蒼くなりようは尋常じゃない。――もしかして人が死ぬのを見るのは初めてか?」

 まさにその通りだったんで、コクンと頷くと、

「――お前の生国は、余程幸せな国と見えるな。それにしても……」

 レスティさんは呆れたような声で、続けた。

「そんなで戦争を起こすつもりか?」

 私は答えた。

「こんなで戦争を起こすつもりだったんですよ」

 一瞬の沈黙。そしてレスティさんが言った。

「……過去形だな」

「認識がすごく甘かったというのは、さっき重々実感しました。私は……戦争ってものを、人が死ぬってことを、理屈でしかわかってなくて……だからこそ、王子が独立戦争を起こすのの手助けをするなんてことを、安請け合いしちゃって……」

 レスティさんは静かに言った。

「……それで?安請け合いだったということがわかって、それでどうするつもりだ?」

 ――そう。どうするのか。――それが一番の問題。

「……悩んでるんです。戦争の是非とか、私に人を殺せるか、とか。でも考えて答えの出ることでもなさそうだし――」

 この世界についての私の情報は、すごく少ない。でもとりあえず、思い出せる限りのことを思い出してみる。

 トーレ王子。ムルー。プリチュの魔王ロッフ。――運良く、王子が私に興味を持ってくれなかったら、今頃はなかった命かもしれない。何が出来るか、わからない。どうなるのかもわからない。だけど――。

「王子と、行きます」

 口に出して進む方向を決めたら、少しすっとして、先を続けて言った。

「人が死ぬのを見てられるかなんてわからないし、戦えるかもわからない。足手纏いにしかならないかもしれない。だけどほかに行く道もないし」

 レスティさんが、レイルギーナを見つめながら言った。

「中々、予想通りの、答えだな。ムルーもそうだが――あの王子には何か、人をひきつけてやまないものがある。だからこそ魔王もあの子を欲しがったのだろうが――」

 レイから目と手を離して、私を見て、レスティさんは更に言った。

「ただ、このまま王子についていくつもりなら、一つだけ覚えておけ。――戦うことに意味などない、重要なのは何の為に戦うか、だということを」

 何の為に戦うか――?その問いの答えは、今のところ見付けられなかったけど、その言葉は頭の中で何度も何度も繰り返され、しまいには心の底に沈澱した。

昔、この部分を書いたより後に、馬の高さを知りたくて、乗馬体験コースに行った事があります。乗るところが目の高さ位、というのはその時の経験を基に書き足しています。

いやーあの乗馬体験は……落馬まで体験して貴重な経験になりました……。

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