遠回りの恋
好きだった人と仲良く...
高校三年の冬、俺は彼女に告白した。
幼なじみだった。物心ついた頃から隣にいて、帰り道も、休日も、特別な約束なんてしなくても一緒にいた。
それが当たり前すぎて、逆に言葉にするのが遅くなった。
「好きだ」
やっと伝えたその言葉に、彼女は少し驚いた顔をしたあと、困ったように笑った。
「……ごめん」
それだけだった。
「なんで?」
思わず聞いたが、彼女は首を振るだけだった。
「言えない」
それ以上、何も教えてくれなかった。
その日を境に、俺たちは少しずつ離れていった。
連絡は減り、会うこともなくなり、気づけばただの「昔の知り合い」みたいになっていた。
それから数年後。
社会人になった俺は、地元に戻ってきた。
懐かしい街並みは、ほとんど変わっていなかった。
よく二人で寄ったコンビニも、公園も、そのままだった。
ただ一つ違うのは、隣に彼女がいないことだけだった。
夕方、仕事帰りに何となく歩いていると、見覚えのある後ろ姿が目に入った。
細くて、小さくて、どこか頼りなさげな背中。
「……まさか」
思わず足を速めた。
振り向いたその顔は、間違いなく彼女だった。
けれど、あの頃とは違っていた。
彼女は病院服を着ていた。
腕には点滴の跡が見え、顔色も驚くほど白い。
「……久しぶり」
彼女は、昔と同じように、少し困った笑顔を見せた。
「どうしたんだよ、それ」
俺の声は、自分でもわかるくらい震えていた。
「入院してるの」
軽く言うけど、その一言が重かった。
「なんで言わなかった」
高校の時のことが、急に胸に蘇る。
彼女は少し黙ってから、小さく息を吐いた。
「……あの時、病気が見つかったの」
時間が止まった気がした。
「治るかわからないって言われて」
視線を落としたまま続ける。
「だから、断ったの」
「……なんで」
「だって」
彼女は苦笑した。
「好きだったから」
言葉を失った。
「一緒にいて、途中でいなくなるの、嫌だったから」
風が静かに通り過ぎる。
何も言えなかった。
でも、今度は黙っていられなかった。
「じゃあさ」
彼女が顔を上げる。
「今は?」
少しの沈黙のあと、彼女は答えなかった。
ただ、少しだけ目を逸らした。
それから、俺は病院に通うようになった。
最初はぎこちなかったけど、少しずつ昔みたいに話せるようになった。
くだらない話で笑って、昔みたいに時間を過ごした。
外出許可が出た日は、一緒に街を歩いた。
よく行っていた公園。
放課後によく寄った店。
あの頃と同じ場所を、今度は少しだけゆっくり歩いた。
「懐かしいね」
彼女が言う。
「そうだな」
でも、あの頃とは違う。
時間が限られているかもしれないという現実が、どこかにあった。
それでも、俺は何度も会いに行った。
何度も一緒に笑った。
そして、ある日。
「ねえ」
彼女がぽつりと言った。
「もし、治ったらさ」
「うん」
「その時、もう一回言ってくれる?」
少しだけ恥ずかしそうに笑う。
胸が熱くなった。
「何回でも言うよ」
そう答えると、彼女は泣きそうな顔で笑った。
それから数ヶ月後。
医者から「寛解」という言葉が出た。
完全に治ったわけじゃない。
でも、普通の生活に戻れる可能性が高いと言われた。
病院の外に出た彼女は、深く息を吸った。
「空気、違うね」
「そりゃな」
俺は少しだけ笑って、そして真面目な顔になる。
「なあ」
彼女が振り向く。
あの時と同じ場所じゃない。
でも、同じ気持ちだった。
「好きだ」
今度は迷わなかった。
彼女は、少しだけ驚いて、それからゆっくり笑った。
「……うん」
小さく頷く。
「私も」
その一言で、全部が報われた気がした。
遠回りだったと思う。
でも、その分だけ、確かだった。
もう手放さないと、自然に思えた。
隣を見ると、彼女がいる。
それだけで、十分だった。
好きな人とつがいに慣れますように。




