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遠回りの恋

作者: 爱丽丝
掲載日:2026/03/23

好きだった人と仲良く...

高校三年の冬、俺は彼女に告白した。

 幼なじみだった。物心ついた頃から隣にいて、帰り道も、休日も、特別な約束なんてしなくても一緒にいた。

 それが当たり前すぎて、逆に言葉にするのが遅くなった。


 「好きだ」


 やっと伝えたその言葉に、彼女は少し驚いた顔をしたあと、困ったように笑った。


 「……ごめん」


 それだけだった。


 「なんで?」


 思わず聞いたが、彼女は首を振るだけだった。


 「言えない」


 それ以上、何も教えてくれなかった。


 その日を境に、俺たちは少しずつ離れていった。

 連絡は減り、会うこともなくなり、気づけばただの「昔の知り合い」みたいになっていた。


 それから数年後。

 社会人になった俺は、地元に戻ってきた。

 懐かしい街並みは、ほとんど変わっていなかった。

 よく二人で寄ったコンビニも、公園も、そのままだった。


 ただ一つ違うのは、隣に彼女がいないことだけだった。


 夕方、仕事帰りに何となく歩いていると、見覚えのある後ろ姿が目に入った。


 細くて、小さくて、どこか頼りなさげな背中。


 「……まさか」


 思わず足を速めた。


 振り向いたその顔は、間違いなく彼女だった。


 けれど、あの頃とは違っていた。


 彼女は病院服を着ていた。

 腕には点滴の跡が見え、顔色も驚くほど白い。


 「……久しぶり」


 彼女は、昔と同じように、少し困った笑顔を見せた。


 「どうしたんだよ、それ」


 俺の声は、自分でもわかるくらい震えていた。


 「入院してるの」


 軽く言うけど、その一言が重かった。


 「なんで言わなかった」


 高校の時のことが、急に胸に蘇る。


 彼女は少し黙ってから、小さく息を吐いた。


 「……あの時、病気が見つかったの」


 時間が止まった気がした。


 「治るかわからないって言われて」


 視線を落としたまま続ける。


 「だから、断ったの」


 「……なんで」


 「だって」


 彼女は苦笑した。


 「好きだったから」


 言葉を失った。


 「一緒にいて、途中でいなくなるの、嫌だったから」


 風が静かに通り過ぎる。


 何も言えなかった。


 でも、今度は黙っていられなかった。


 「じゃあさ」


 彼女が顔を上げる。


 「今は?」


 少しの沈黙のあと、彼女は答えなかった。


 ただ、少しだけ目を逸らした。


 それから、俺は病院に通うようになった。

 最初はぎこちなかったけど、少しずつ昔みたいに話せるようになった。

 くだらない話で笑って、昔みたいに時間を過ごした。


 外出許可が出た日は、一緒に街を歩いた。


 よく行っていた公園。

 放課後によく寄った店。

 あの頃と同じ場所を、今度は少しだけゆっくり歩いた。


 「懐かしいね」


 彼女が言う。


 「そうだな」


 でも、あの頃とは違う。

 時間が限られているかもしれないという現実が、どこかにあった。


 それでも、俺は何度も会いに行った。

 何度も一緒に笑った。


 そして、ある日。


 「ねえ」


 彼女がぽつりと言った。


 「もし、治ったらさ」


 「うん」


 「その時、もう一回言ってくれる?」


 少しだけ恥ずかしそうに笑う。


 胸が熱くなった。


 「何回でも言うよ」


 そう答えると、彼女は泣きそうな顔で笑った。


 それから数ヶ月後。

 医者から「寛解」という言葉が出た。


 完全に治ったわけじゃない。

 でも、普通の生活に戻れる可能性が高いと言われた。


 病院の外に出た彼女は、深く息を吸った。


 「空気、違うね」


 「そりゃな」


 俺は少しだけ笑って、そして真面目な顔になる。


 「なあ」


 彼女が振り向く。


 あの時と同じ場所じゃない。

 でも、同じ気持ちだった。


 「好きだ」


 今度は迷わなかった。


 彼女は、少しだけ驚いて、それからゆっくり笑った。


 「……うん」


 小さく頷く。


 「私も」


 その一言で、全部が報われた気がした。


 遠回りだったと思う。

 でも、その分だけ、確かだった。


 もう手放さないと、自然に思えた。


 隣を見ると、彼女がいる。


 それだけで、十分だった。



好きな人とつがいに慣れますように。

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