かみさまのいばしょへ ごあんない
「懐かれているみたいですね」
「ひ、ひい……よ、良かったですっ……」
スーツに噛み付くと、こちらだ、と言わんばかりに引っ張られる。
天竺の渡世さま、とやらに連れていきたいのだろうか?
「チャカナちゃん。貴方はどこから来たの?」
犬らしき生き物はニコニコして答えない。困り、人の生活があったはずの街を見渡した。
「ここの子?」
「チガウ!」
「そ、そう」
すると近場にあった衣服をスンスンと嗅ぎ、犬は何か確かめている。そこは再現度が高い。
「オチャカナくれなかった。こいちゅら、あたち、うみに、ながした」
「……えぇっ、ひどいっ! 平気だった?」
「は?? コレに同情するんですか? 変わっていますね」
「だって、海ですよ! さっき私も打ち上げられて、凄く怖かったンですからあ」
「はあ……」
あまり実体験の生々しさは伝わっていないようだ。
ミス(Miss)は慌てて大型犬の言う通り、後を追っていった。
「その天竺の神さま、というのは昔からいる神さまなのですかね?」
南闇は村から離れていく階段を登りながらも、犬へ尋ねた。
「チャカな!」
「僕には答えたくはないようだ」
「何でだろ……」
「貴様がきらいだ」
「は、アハハ……毒舌な子ね……」
大型犬だと決めつけていたけれど、メガネザルに似ているな、と少しだけ思う。大きな眼球と丸みを帯びた耳。
もしかすると猿に近い生態なのかもしれない。
首飾りをしているのもそこら辺にいる犬とは別物だとしらしめている。タダモノではないのだろう。
(この子も神さま、なのかな?)
「みす、天竺のかみさま、敵意なし。ふたりとも、待ってる。安心」
「ありがとう」
「神さまも漂着した、まわりに、天竺の渡世さまと呼ばれてりゅ。悪い神じゃ、ないよ」
「さすが、海に囲まれた離島はマレビト神が多いですね。勉強になります」
犬によれば神? は大きなナマコに似ている。火口の湖に住んでおり、たまにお祭りでお供え物を食べて富をもたらすという。
「春夏さんが水蛭子を拾ったのだそうですが、貴方はご存知ですか?」
「……。ここ、かみさまに! 案内しろ、言われた!」
「チャカナちゃんが? ありがとう」
「誰に案内しろと?」
「……チャカナ! チャカナ!」
ピョイン、と野うさぎの如く軽々と道を走ってはこちらを振り返り着いてこい、と催促する。
「はあ、不気味な輩だ」
「ええ? そうですか? 可愛らしいですよぉ、アレは」
信じられない、と言いたいのだろう。笑みで固定された顔面が物言いたげにこちらをガン見してきた。
チャカナ!




