「生きるというつよいきもち、それはれんろー」
そうのほほんと笑って差し出してきた小瓶。ケセランパサランにしては光り輝き、神々しい。
「それは──」
サムサーラの第一眷属が目を輝かせたが、バティは知らずに毛束の小瓶を手に小さく呟いた。
「ケセランパサランならば、……我々を救ってくれ」
藁にもすがる思いだった。──ケセランパサランから光が炸裂し、どこからか笛のような音が降ってきた。
「それは、それを頂戴っ! 早くわたくしに、あ、ガッ、グエッ」
駆け寄ってきた第一眷属の喉を横からユキヒョウがかぶりつき、血飛沫を散らせた。目まぐるしい出来事に唖然としていると、あれだけ力を誇っていたサムサーラは地面に転がる。
「物分りの悪い、こども、おしかり、うけよ」
巨大なユキヒョウが人語を放ち、こちらを一瞥する。見た目はユキヒョウのはずだが、尾がなく何よりも得体の知れなさがまとわりついていた。
「お前の、願い事かなった。混じり気のない、きもち、れんろーに、届いた」
「れんろー?」
この毛の束はケセランパサランではないのか?
「生きるというつよいきもち、それはれんろー」
空から太陽光とはまた異なる光が降り注ぎ、赤い雨を降らす雲を蹴散らす。生ぬるくジットリとした風が止み、血の色をしていた洪水は泥混じりのものに変わる。
彼岸が離れていく──そうして、印猫と多多邪の宮の死に体も忽然と消えていた。
「ラフ……」
ミハルが静かに呟いた。誰かの名前か。
バティは空を照らす美しい人面獣を仰ぎ、あれが『れんろー』なのだろうか? と無心になった。
──会えるよ。また、彼らに会えるよ。
「印猫さまが、印猫さま、いなくなっちゃった! いやだ、いやだよ」
カヤスにはあの声が聞こえていなかったのだろうか?
「大丈夫だ。また会える」
「そうよ。カヤス、リャクナシ。貴方たちが立派になれば印猫も褒めてくれるわ」
美麗之前には聞こえていたのか。それは今この時訊ねるべきではない、とバティは従者を元気づける。
「あーあ、あぁー、めんどーくさいなー、れんろー、あとかたづけ、てつだわない、はーあ」
ユキヒョウはトボトボどこかへ歩き出す。そうして揺らめいたかと思えば消えてしまった。
「アイツ、どっかで会った事あるような……」
ミハルが首をかしげていたが、ン? と空からバタバタと騒々しい音に慌てた。マスコミのヘリコプターが数機、飛んでいる。
「見つかる前にズラかるぞ! バティ!」
長かった印猫編が終わりました。
ありがとうございました。




