穴が空いた
──カヤスが、一人で突っ込んでいったから不安で。あの子、変に能天気だし向こう見ずだから……嫌だよ。死んじゃうなんてっ。
あれから彼女を落ち着かせるために、他愛もない話をふっかけた。
ここは高原地帯だが、他には暖かな光を称えた花畑やゆったりとしたホテルのロビーもある。どこの世界がお望み?
遊園地もある。
「……ここで良い。私たちはこういう所には縁がなかったから」
「ほーか。穏やかでいいだろ? 鳥も鳴くし、もう少し行くと湿地があって、な?」
「印猫さまはここよりも死の淵がお気に入りなのよ。何百年も入り浸って、取り憑かれたみたいに」
「死の淵……そんな場所があるんか。知らなかったな」
「……ええ。普通なら」
想像がつかないが、彼女のかんばせからしてオススメできない場なのだろう。
「印猫さまは……昔は優しくて、聡明で私たち二人を何より大切に思ってくれた。けれどクニが攻撃されて、逃げ延びて、その間に狂っていったの。多多邪の宮さまに救われてからは我々を滅ぼした元凶の仇をとるって……でももう皆が敵に見えているみたい」
「なるほど。目的と行動がすり変わってしまったんか……」
「嫌なの。そんなの、私たちは何もできない──」
いきなり眼前にリャクナシと瓜二つの服装を着た少女が墜落してきた。
「カヤス! 生きていたのね! 良かった!!」
「あ〜〜~っ! リャクナシも! 良かったよお〜〜!」
二人で抱きしめあうとわんわん泣いた。本当にお互いの身を案じていたようで、ミハルは少し安堵する。
「多多邪の宮さまがっ! 美麗之前とばていの──」
「バティに何かあったのか?」
「あ、えっとあんた誰。あ、あの二人、死んじゃうかもしれないっ! 多多邪の宮さまと戦っているけど、どうしようっ!」
(なーにがあったのやら。身内でドンパチして)
ミハル・ミザーンがいるのを忘れたかのごとく、カヤスは慌てふためき、今から元の世界に戻ろうとリャクナシに呼びかけていた。
その時だった。
大地震が来たのかと勘違いするほどの揺れと地鳴りが発生し、3人は必死に這いつくばる。
「な、何よこれ?!」
「分からん! 地割れに気をつけろ……ああ?! 地割れよりも、穴に気をつけろよ!」
安息の地であるはずの高原地帯が、穴に吸い込まれていく。今まで生きていてこんなもの見た事がない。
(多多邪の宮がやったのか?! )
一方、その頃、三人も異変を感じ戦闘をやめた。地鳴りと揺れが異空間を蹂躙し、キューブが落ちていく。上下すらない異例の空間で、だ。
「な、何?!」
「貴様がやったのか! 多多邪の宮! 見損なったぞ!」
「違う! わえは、何も──信じてよ」
二人の双眸はあからさまな疑心を宿していた。胸が苦しくなり、多多邪の宮は息が荒くなるのを自覚する。
キューブが落下してきて、何かに吸い込まれる。二人は手を差し伸べてはくれなかった。
「なんで、なんでよ。わえは悪くないのに……なんで、誰もわえと仲良くしてくれないの」




