腹違いの兄弟・善狐 毒された多多邪の宮
「それじゃあ我々を辱めた善狐と同じじゃないっ! 阿字母さまは個を尊重してきた。アナタ、正気なの?!」
(ああ、正気じゃない。それは阿字母の存在自体を否定する言動だ)
バティは脂汗をかき、双方を見やる。彼らは善狐を痛い程に知っているはずだ。
そもそも善狐とは──腹違いの兄弟のような存在であった。
阿字母と同じ体制を持つ、神道的要素を持つ集団だ。神道流を付随されたのは後からではあるけれど、元々異なる対象として見られていた。
彼らはサムサーラと名乗り、周囲からはローマディーと認識されていた。単に狐という意味だ。
サムサーラの意味は──別の自分になろうとする事。
善狐たちの基本的な異能は別の自分へなる、別物にしてしまう性質。
穀霊神としての、生命を循環させる力を持つ。
日本ではそう信仰されてきた。
(ああ……我々が腹違いの祖に属さなければ)
かの兄弟の眷属たちは阿字母集団を負かした戦歴があり、皆から揺るぎない信頼を置かれている。だから、我々は表舞台から姿を消した。
美麗之前が言ったように──彼らは万物に宿り、万物から離れられる。どの隔たりもなく、眷属に基本、個もない。性格はあれどそれは人間や「表層に現れるための」道具に過ぎない。
ある意味、眷属たちが個を持つ阿字母の対となるには相応しい性質を持つのだ。
「多多邪の宮。君は毒されすぎた。あのジゼル・クレマンとやらに」
「……汝らはわえをどこまで失望させるの」
「目を覚ませ! 阿字母の声を聞くんだ」
「阿字母? ああ、あのひとはわえになんて興味ないよ。あるのは、そうだなぁー……」
言葉を濁らせ、彼はしばしば空を見つめる。
「あのひとには何も無い。何も、個を欲しがっては不満をもらすないものねだりなの。はぁ……みんな、そんなヤツばっかりだ」




