交渉決裂
──彼女は祖と眷属の繁栄を位置づける役割を果たし、何千年もその課されたものを遜色なくこなしてきた。
脱落する眷属たちを食べ、または生み出す。
彼女が眷属を生み出す異能を有し、他の者たちが共有し、使役する。無くてはならない、それが印猫。
頂点が神託を下し、そうして想像と破壊のサイクルがある。
無害そうな少女の見た目と従順な付き人を二人従え、高次元の神言を受け取り──多多邪の宮をサポートする。
それが本来の姿。
「美麗之前。第二眷属を処分したらどうなるか分からないじゃないか。僕たちの数千年続いてきた秩序、いや、原理が崩壊してしまうかもしれない。危険すぎる」
「阿字母さま、そうして多多邪の宮が新しい第二眷属を選抜すればいい事よ? それに数千年続いていたって、変わる時は変わるんだから。まぁ……そんな逸材が現代の世に居るとは思えないけれどね……」
不仲の美麗之前も、印猫を認めてはいる。だが意思は固いようだ。
「アナタはいいわよねえ、ただ記すだけだものぉ。アテクシとは違う。調停者としての重みが異なるのはご存知? 我々は危ういバランスで成り立っているのよ」
「それは僕への貶しか?」
「まさか! 事実よ。4使者の誰かがヘマをすればドミノ式に我々は倒れ、あっという間に滅ぶ。善狐とかいう高尚気取った輩のせいで、アテクシらは不安定極まりない生き様を晒す羽目になった──ああ、アナタはよく知っているんだった」
あからさまな見下しにバティはイラついたが、グッと堪えた。あちらのペースに呑み込まれてはならない。
アレの常套手段だからだ。
「そうだ。だから印猫は不可欠。更生させて持続させるべきだ。頂点が神託を下し、印猫の創造と破壊のサイクルがありきで今は持ちこたえている。それをねじ曲げてはならない」
「ハン! 生易しいわ。ヒトはそうそう変わらないのよ、坊ちゃん? そうね。更生ね、がんじがらめにすれば多少は大人しくなるかもね」
「そうすればいい。多多邪の宮に交渉しよう」
すると彼女は笑う。嘲笑。諦め。それを一緒くたにした笑いだった。
「彼は当てにならないわあ。ざぁんねん。どんなにまともに話しかけても無駄なの! アイツは誰も見てない!」
「はあ……弱ったな。美麗之前、君はどうしても処分したいようだ」
「ええ。最初からそう言ってるじゃない」
二人は互いをねめつけ、神経をさらに尖らせた。
「こういう場合はじゃんけんで決めるしかないな」
「あらあら、物騒なこと!」
バティは右手に鉄剣を召喚し、狐火を纏った美麗之前に刃先を突きつけた。




