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ふく が おちています!

 砂利まみれになりながら、立ち上がると無傷なのを感謝した。スーツの生地すら敗れていない。

(どういう原理なんだろ。このスーツ…)

 渡河島(わたるがしま)。彼らが言っていた島にやってきたようだ。偶然。

「あのお、水蛭子は居ませんよね?」

「変な生き物はいませんでした。安心してください」

(変な生き物…。目の前に、変な犬はいるけど…南闇さんの中ではカウントされてないんだ…)

 わん、と雑な鳴き方をした大型犬は尻尾を振って、こちらを仰いでいる。大きなまなこが不気味だ。

(食べられないようにしなきゃ…)

 得体の知れないものを漂わせている。化けて、最強の生き物になったら太刀打ちできない。





 二人と1匹は砂浜から島の村、生活圏内へ向かう。案外、民家の密度は高く、人がたくさん住んでいるのだと気づく。

「──蛭子とは、また大層な名をもらいましたね」

 彼は歩きながらふと言う。

「蛭子…」

 ひるこ。響きは存じていたが、内陸部で育ってきたミス(Miss)にはちんぷんかんぷんな正体であった。

 平凡に、凡庸に成人になった。博識になる必要もなく。

「蛭子とは古事記などに登場する神を指します。色々あって両親に海に流され、後に富をもたらす存在として認識されました。ミス(Miss)さんは日本神話を読んだ事はないのですか?」

「あー、えと、ワニを騙したウサギ?の話なら」

「なるほど。幼児向けの絵本レベルでしたか」

「ぐあーっ!!」

「いきなり獰猛化してどうしました?」

 肩透かしをくらい、グヌヌとなるが確かに児童向けの本以来読書はしていなかった。

「ン?南闇さん、服が落ちています!」

「ああ、なんか落ちていましたね」

「なんかッて」

 道に不自然に落ちている衣服。誰かが海に泳ぎに行くからいきなり脱いで消えたかのような。

 近寄って血しぶきがないか観察するも何も痕跡はない。

「洗濯物が飛んだんじゃないですか」

「ええっ、あ!また落ちてます!今度は靴も!」

 靴に靴下、そうしてなぜか財布。人の存在だけが残り、他はない。

 入り組んだ路地に点々と服が散らばっている。

「これは…島から出た方が」

「いえ、探索してみます」

「イヤーッ!!」

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