ほうきぼシ こうもり
「ん? 誰だ?」
異質な気配が降り立ち、こちらへやってくるのを感知した。
パーラムは最初、死を体現する覃(のびる、ひととなる)だと思いみ、なぜ今更やってきたのだと疑問に思う。アレは自らの空間を好み、滅多に外にでない。出るとしたら気にかけている娘の事だ。
眩い光が暗鬱たる空間をいっせいに照らし、月すらない空を明るみにした。雪が降りそうな赤い雲の反射は、朝焼けに似ていた。
「蓮楼」
パーラム・イターはわずかに驚きを含む声色で来訪者を呼ぶ。
美しいかんばせの人面獣であった。うねる白銀の長髪は自ら発光し、瞳は美しく蘭々と灯火を宿している。
かのアルビノに酷似したコウモリの人面獣は蓮楼といった。
ユキヒョウに擬態した死の塊である覃(のびる、ひととなる)は希死念慮の暗闇で世界に復讐している。
のびるは光に強い性質を持ち、死を蔓延させるのが彼の目的。では光=生は?
美しく、周りを照らす。そうして世界に居場所を無くす。不条理な鮮烈な、残酷で奇跡的な事象をもたらす。
蓮楼という名を持つ、生を顕在させる塊。
「なんだ、いきなり。何かの冗談か?」
パーラムは椅子に座り直し、クッキーを食べる。すると彼女は美麗な髪を靡かせ、テーブルの上に着地した。
彼女は一言も話さない。理由などない。そういう存在だからだ。
「あんたほどの存在でもクッキーを嗜むのかい?」
器用に口でお茶うけの皿からクッキーを啄むと、こちらへ差し出してきた。
「くれるの? 相変わらずだなあ」
呆れ笑いを浮かべ、パーラムは受け取った。女性はさらに光り輝き、ソッと自らの毛をテーブルに落とす。
生き続けろ、と行っているのか? それともこれから何か起きるのか?
神のみぞ知る──いや、蓮楼という名を持つ高次元の生き物しか知らぬメッセージだった。
「なぜ私に会いに来てくれるのか、毛頭分からないけどありがとうよ。あたしはこの世から捨てられた人間なのに、さ」
彼女は何も答えない。コウモリは俊敏な動きで飛び立ち、彗星の如く薄曇りの空を駆けていった。




