かんじょう い にゅう
「この世の者でない部類を殺めるのはこの世の物でない毒だけだ。なあ、至愚」
いつの間にか現れていた至愚がやれやれ、と『肩』をすくめる。人面獣に人体はない。
それらしい仕草をするだけ。
「ファンが多いアンタなら、あの気持ちは理解できる? 私は2人しかいないみたいで」
「ファン? 弟子ならいたけどね。だが憧れだけなら可愛いものだよ。憎しみを抱くものがたくさんいた」
人面獣は猫草を食むように彼岸花を口にする。毒を持つ彼岸花。
「憎しみを抱きながら門下になるなんて気が触れているわー」
「人ってのはそこまで単純じゃなかったんだ。パーラム。憧れから増悪に変わる者、端から恨みを抱きながら寝首を掻く対象に対抗するために門下に入る者。後は錯綜した、破綻した感情を抱く──」
「イヨ子は最後の最後に入る?」
茶をすすり、パーラムは金色の目を紫色の空へ向けた。雪が降りそうな明るい雲。
「さあ、だから人は単純じゃないんだ。パーラム、お前は短絡的な思考回路で多多邪の宮から逃げていたのかい?」
「分からない。私は小さい時で人の感情はとまってやがる。道徳教育を受けたら、あの逃避に名前がついていたかもしれないな」
「ハハハ! なら乎代子に教われ。そこはアイツはアンタより大人だ」
「乎代子、か」
そう言い、脳内に八重岳 イヨ子が浮かぶ。彼女を彷彿させる女性。それが洞太 乎代子。
そうか。何もおかしくはない。──アレは残骸から生まれたのだから。
(アレが自分を刺してくれりゃあ良いのにな──でもそれは罪悪感、なのか? 分からないな。罪悪感で刺されたいと思う? )
イヨ子が佇み、笑う。
ゾッとする笑顔だった。憎悪とも好意ともつかぬ。
錯綜してもおらず、アレは……。
なんて、ありもしない光景を考えて味が狂った茶をカップに継ぎ足した。




