ひょうちゃく
ミス(Miss)は海原に飛び込み、後を追った。溺死する事はないだろうが、人間であった頃の名残りで助けようと身体が反射的に動いた。
口に塩水が入り、空気が漏れる。
「チャカナ。チャカナ、チャカナをおくれ」
船の上であの奇妙な犬が言葉を話している──気がした。
「お前ら命、チャカナくれたら助けてあげる。チャカナ、おくれ」
「ヒッ!コイツも化け物か!」
「助けてあげる。チャカナをおくれ、おくれ」
「あげるか!化け物がっ!」
「ギャッ!──お前ら、死ぬど。しぬ、シヌ死ぬシヌ、」
意識が薄れミス(Miss)は水面が輝いている景色を最期に、脱力した。
砂利と波の音がして、岩場には漂流物が絡まっている。視界が明瞭になってくると、息が苦しくなった。
「ゲホッ!!あ、いだだっ…生きてる?」
「チャカナをおくれ」
「わ!」
眼前に目が大きな犬がいる。ミス(Miss)は手につかんでいた正体不明の魚をあげた。
「こ、これっ」
「チャカナ!」
嬉しそうに犬はガツガツと食べ始める。
「な、なな、な、南闇さん?南闇さんは?」
「いますよ。さいわいにも砂浜に打ち上げられたみたいです」
「えっ、あの人たちは?」
「さあ?」
笑顔のまま、彼は何処吹く風でしゃがみ込んだ。海原を眺めながら。
「確かにあの様子だと、何事もなかったように思えますね」
「え、ああ、あれは私たちがいた港町?」
倒港、と言ったか。ヒトリ雨という女性と出会った葉苅村から長い道のりのサイハテ。
ドクター駒田。村の老婆。
あの記憶にしては味気なく、変哲もない港町の光景がある。少しぼやけているが事件は起こっていないように見えた。
「あんなに、」
「さて、ミス(Miss)さん。この島も人が見当たりませんでした。ただ家屋はあったので」
「え〜〜~…嫌ですもう!」
「みす、みす」
ぺろぺろと舌でなぐさめられ、めげていられないと気を取り直した。嫌がっても現実は止められない。
「ありがとう。ワンちゃん」




