よるまい の しらせ
夕方頃の底冷えして来た時間帯──ある数週間前に遡る。団地とマンションが隣り合わせになる森が生い茂った道での出来事だ。
「──ヨルマイ、久しぶりだな。お互い外道に成り果てた、見てくれよ。最低だろう」
至愚はアライグマを見かけ、声をかけた。通常のアライグマより一回り、いや、人間の子供、6歳ほどの巨大な個体は振り向く。
するとかの獣は人面獣となり、不気味な光を灯した双眸がこちらをとらえた。
「私に会いに来たと言う事は急用かい?」
「……。善狐が近場にやってくる。気をつけた方がいい」
「はあ、善狐か。これまた規格外なのが……」
ヨルマイ、と呼ばれた人面獣は通達を得意にしている。どんな相手にも、バレずに情報を持ってくる。──それが彼女の特性だ。
「貴方の弟子が騒ぐかもしれない。弟子にはサリエリ・クリウーチがウロついていると、伝えといた」
「サリエリが? サリエリ・クリウーチの残骸は所持しているよ」
眉をひそめるが、あちらは無表情のままだ。
「凶兆だ。サリエリ・クリウーチ、いや、似ている幽霊に気をつけろ。そうしてラファティ・アスケラにも」
「なるほど。かの稀有な幽霊とやらに、やっと会えると訳か」
「再三いうが凶兆だ」
双方は黙り、しばし緊張した空気が漂うが──猫が飛び出してきたために別方向へ歩き出した。また知らせがあるのならば、ヨルマイはやってくる。
至愚もまた何かあれば呼びつける。
「にゃーん、猫ちゃん? アレ、どうしたの?」
スマホを構えた仕事帰りのサラリーマンが異常に怖がる猫を前に困惑する。毛を逆立て、ガタガタと身を震わせていた。
「善狐? ああ、アタシらをぶちのめした輩どもか。まだ居るとはな」
パーラム・イターは至愚の毛並みに顔を埋めて、猫吸いならぬ至愚吸いをしている。
何でもそれだけでストレスが解消されるという。なにが良いのやら、と本人は呆れていた。
「居るだろうさ。あんたらがしぶといなら、あっちもそうだろ」
「アイシワリヤとローマディーは生まれが同じだから、まあ、でもアイツらは嫌いだっ」
アイシュワリヤ──権力者である事、確かそんな意味があったはずだ。該当しない軍団はかなり崇高な名を有していたのか、と至愚は感動する。結局、何も知らなかったのだから。
「これからどうするつもり? 至愚? サリエリ・クリウーチの残骸は別として、亡霊は処分するの?」
「しないよ。むしろ幽霊の無限性を突き詰めたい。そのためにはラファティ・アスケラに被検体になってもらうよ」
「はー、人たらし」
毛を吸いながらパーラムは愚痴を吐く。
「ローマディーは強い。アタシも認める。消えなければいいなあ、ラフ」
ラファエルは確か癒しと旅人の天使であったか。ならばラファティ・アスケラは旅人としてどこか、幽霊の導く場所へ行くのだろう。
ローマディーはヒンディー語で狐です。そのまんまです。




