ひるこ
グッ、と怒りを抑えつつも銛の先をこちらへさらに向けてくる。あの刃先はスーツさえ傷つけられないだろう。
ミス(Miss)はピリピリした空気に挙動不審になりつつも、何か言おうとした。
「はあ?何喧嘩してやがんだ?早くあの船にいかねえと!」
「僕は遠慮します。釣り餌に食らいつくほど、飢えていませんし」
「釣り餌?…ま、まて。春夏さん!?グアッ!」
不意打ちで殴られ、海に落とされた漁師にミス(Miss)はこちらに銛を向けた春夏を睨んだ。
「何のつもりですか?彼らは人間ですよ」
「化け物のくせに、なぜ、人の形をしているの?」
彼女が二人を警戒しつつも依然として武器を突きつける。
「春夏さん。化け物が人の形をしていてはいけませんか?人の形くらい利用させてもらっても、良いでしょうに」
「──化け物が名前まで覚えやがって」
「あ、アレは春夏さんがやったのですか?」
二人の問いに彼女は顔面蒼白で後ずさる。ありえない物体を前にしたかの如く。
「化け物が人みたいに心配して、私の名前を喋らないで!人食い化け物のくせに!」
「釣り餌を用意するほどに、化け物を信用している癖に。今更なにを。それに誰の入れ知恵ですか?ソレ」
漁師が泳いで船に上がってくる。「春夏さん、ありゃ、アンタがやったのか?!」
「いいえ。水蛭子さまがやったのよ」
「す、すい?アアン?!?ひ、蛭子さま??アンタら、海のモンを拾ったのかっ!」
「うん。だって──可哀想だったから」
「可哀想っつても。気安く海のモンを拾うなと言われてきたろう!」
「良いじゃん!コイツらより数百倍可哀想だし、無害なんだっ!」
喚き散らした女性は正気でないように思えた。
「あはは!無害?この世の者でない部類が?全てのこの世の者でない存在が人に害をなさないと?」
銛を突きつけたまま、春夏はわずかに狼狽する。
「居ませんよ、そんな物は。人間は捕食対象でしかありません。可哀想に見せかけて食糧を備蓄している。よくあるパターンです」
「でもあの子は──」
「付け入るのが僕より数段上手のようだ。ご教授いただきたいですね。その者に」
「このおっ!でていけっ!!!」
銛が発射され、心臓へ突こうとめがけてくる。しかし彼は傷つかず、衝撃でよろめいた。
「南闇さん!」




