わざわい と もうしん
「──印猫 我無比女さまは、わたしをとっても褒めてくれて、寝れない時は撫でてくれて」
アリーはずっと話し続ける、奇妙な生き物を観察していた。質問をするとすぐコレだ。
彼女を肯定する話ばかりを口にして、楽しそうに報告する。オフィスルームだった狭い部屋はもはや原型を留めていない。
シミと歪みを顕在化したかのような、壁がひび割れた怪奇現象が起きていた。
「で、印猫とやらはどんな姿をしているんだ?」
「でっかい、優しい、ライオンかオオカミか、えーと、あーとっ」
「動物なのか」
「え、いや、印猫さまは下等生物ではなくて、とーっても格の高い神聖な人物なんですよォ」
ニコリと彼女は言う。
「……誰も印猫を正確に見た事がないらしいな?」
「はい。眷属化した者はみな、正気ではありませんでした。様々な神に当て嵌めたり、または妖精と表現していたり」
イェヒエルはテープレコーダーを片手に機械的な感情で取り繕う。
上司に捕らえられた眷属化した者は皆、誰かにズタボロにされ、死んでしまう。天使たちの仕業ではない。惨たらしい有り様に吐き気すらする。
だが、椅子に縛られてニコニコと妄言を吐くスコーク ナァ〜ごは未だ生きていた。
「該当しない軍団、または無該当化した者たちをそこまで貶めた善狐は凄まじいな」
「彼らはまた別次元の存在ですから」
印猫は彼女いわく、祖を頂点とした多多邪の宮の二番目の眷属化した貴重な情報源で。そうして元は人間だった可能性が高い。
そうすれば脆弱性をついて、あばけるのではないか。
しかしスコーク ナァ〜ごが盲信する印猫とやらは実在の神ではない。何かが、神になりかけている。
(どうしたらいい? 今なら間に合う?)
イェヒエルは平生を装い、恐怖に息を吐いた。何か、取り返しのつかない事態へ進もうとしている。
(アリーさん。気づいてください。この生き物は手に負えない)
彼女は気づかない。こうと、決めたら進み続けるだろう。
「あのう、彼はどうしたんですかあ?」
「彼?」
「仲間ですう。たしか、らるすて」
「ラファティ・アスケラか?」
「はあい。また会いたいです」




