にっこうきすげ と つまらない かいわ
ラファティ・アスケラはパーラム・イターが封じられている空間で、監視をしつつ、久しぶりに気を休めていた。
だれからも干渉されない空間。魔も人も見つけられない、閉鎖された異空間。サリエリ・クリウーチも出現せず、もっぱら仮眠……傍から見れば爆睡であるが……するかボンヤリする憩いの場になっていた。
「ラファティ・アスケラ。ずいぶん疲れているみたいだナア。なあにかあったのかい?」
「いえ、何も」
ペンをクルクル回し、テーブルの用紙を見つめていると、パーラムが話しかけてきた。
「あたしなんて、どこかの誰かにアイツは阿字母さまの従属から逸脱した異形よ〜〜~♡って罵られたンだ。酷いだろ」
どこからかニッコウキスゲを取り出し、眺める。綺麗な黄色だな、と場違いな感想を抱く。
造花よりも非現実的な無機質さを醸し出している。
「珍しい土地の、希少なニッコウキスゲだ。欲しいかい?」
「要りません。体に障ったら嫌なので」
「連れねーなあ」
「だいいちどこでそんな言葉を言われたんですか? 脱走したんですか?」
暖房完備、加湿器あり。そうして雑誌にクッション。居るには最高の環境である。それでも不満になるか?
「あたしは最強だからね。あと、すんげー地獄耳なんだ。悪口はどこにいても聞こえんだよ」
「こっわ」
ニタリと彼女は笑い、ギザギザの歯でクッキーを貪った。
「……従属から逸脱した異形、そんな事がありえると思いますか? 例えばスラッジの眷属から、変容してしまうとか」
「それはお前か? あるだろうね。この世の者でない部類が数えきれないほどに跋扈しているのは、祖が新たに生まれるからだよ」
「はあ……」
この世の者でない部類はどこから発生するのか、そうして行き場をなくし、さまよい続ける生き物であり、終わりもない。
それは目の前にいる女性が彼岸への橋渡しを放棄したから。
「……俺は、サリエリが神になるのが怖いんです。そもそもアイツはサリエリなんかじゃない……妄想の産物なんだ」
「本当にそうかねえ? 妄想の産物って誰が立証できる?」
「分かりません」
ペンを置いて、ラファティは深呼吸した。
「つーかさ。アンタが抱いていたサリエリへの印象が妄想の産物かもしれねえだろ。きんも」
パーラム姐さんはすんごい地獄耳。




