げんそう あけましておめでとうございます の ゆめ
夜明け前。冬の凍てつく空気の中。
雲一つない大空の中、リクルートスーツの女性はしっかりと相手の手を握った。なびく茶髪と色素の薄い瞳は来る朝日の前触れに光り、反射する。
パビャ子は身を投げ出した、陰気臭い女性の死んだ魚の目を見つめた。
明るい光が反射して、沈んだ双眸の中身が見えた。深い黒に近い瞳に、意思があるように見えた。
「乎代子! 見えるー?! 初日の出!!」
「空から落ちてれば何も見えないだろーが!」
「ありがとー!! 初日の出ぇー!!!」
「は?! バカなん?!」
真っ逆さまに落下するその一瞬、明るい太陽の閃光がビルの間から垣間見えた。
最高だ。
パビャ子は乎代子をきつく抱きしめて、笑顔を浮かべた。
「素敵な1年になりますように!」
「──ハッ、夢か」
洞太 乎代子は畳みの上で目を覚ました。素敵な1年になりますように、とパビャ子に言われた夢だった。
どこかロマンチックなシュチュエーションで、朝日を浴びて、そんな事を言われて。
「夢でよかった……」
呟いて、缶チューハイを手にスマホを見た。2026年。年が変わっていた。
「酒盛りでもするかー」
廃墟化したアパートの通路に出ると、寒々しい空気が白い息を顕にする。ああ、何も変わらないな。
たった数年経っただけで新鮮な気持ちも腐っていくものだ、と感慨に浸る。
「よっ、乎代子さーん。明けましておめでとう」
ひょっこりとパビャ子が現れて、びっくりしたが声を飲み込んだ。「その酒ちょうだいよ」
「いいよ、あげる。明けましておめでとう。素敵な1年になりますように」
「あっ、ソレ。いつだか言ったかも、ほら、空から真っ逆さまでさー」
アルコール臭い息を吐いて、彼女はポツリと言う。
「ばーか。そんな訳あるかー」
今年もよろしくお願いいたします。




