いんびょうさまの ごけんぞく りゃくなし
「わああ〜〜~っ!! 助けて! だれかーっ!」
謎の塊に掴まれた少女がジタバタと手足をとんでもない方向に動かしながら、喚いていた。
「うわ、なんじゃこりゃあ。おまいさん、確か該当しない軍団の一味か?」
「そ、そうなの! とにかくコレをナントカしてえ! 気色悪いぃ!」
時代錯誤な髪型──美豆良といったか、そんな古風なナリをしているが服装は洋服でチグハグだ。困惑した瞳が金色であるからして、上層の存在なのだろう。
「いやあ、こればっかりはどうにもならんな。アンタ、これに心当たりは?」
「な、ないよ! ある訳ないじゃない! 私は印猫さまに、変な気配がするから見て来いって言われたからココに転送されただけだしっ!!」
「インビョーね」
「なにその微妙な反応っ! 早く何とかしてえ!!」
ものすごい圧力で『握り潰し』ている塊からこの世の者でない部類の気配はするが、どの種族にも当てはまらない。むしろ喚き散らしている女の子に近しい気が宿っていた。
「まさか……ここで変死した、スパイの残留思念か?」
「はあ、っ?! 残留思念がこんな力を持つはずないでしょーが! グエッ、吐きそう……」
「わ、分かった! 今、瞬間移動してやるから!」
扉隠しの車座としての異能を使うのは気が引けるが、仕方なし。ミハル・ミザーンは応用としてニンブスを発現させると、謎の女の子に縫いつけた。
──視界が明転し、爽やかな空気が頬を撫でる。2人は無事、扉隠しの車座が共有する異空間へ逃げ延びた。
目の前には延々と続く高原と立体的な雲が流れ、ニッコウキスゲが咲き乱れていた。
「何ここ」
「人喰い空間」
「な、なな、なんつ、つつ、つー所に連れ込んでんのよ!」
「大丈夫やよ。オイラがいるけん。何もしてこないよ」
ハッハッハ、と笑ってみせるも、彼女は顔を曇らせた。「アレは微かに印猫さまに似ていたわ。だから隙を作って、捕まっちゃったの。気味が悪いし……なにより、自分が不甲斐ない」
「自己肯定感低いな〜おめいさん」
「いいえ。あんなモノ、今までいなかったから。私たちの落ち度よ」
印猫さま、とは耳にしない名だ。多多邪の宮らパーラムなら耳にした事はあるけれど、聴き逃していたのか?
「オイラはミハル・ミザーン。扉隠しの車座の一員であり、伝書鳩やってる」
「……私はリャクナシ。印猫さまの第一眷属」
「いや〜無事で良かったな。アレはオイラも危険だと思う。得体がしれねーしさあ、アレは……新種のなにかかもしれんな」
リャクナシと名乗った少女はまたくらい顔になる。
「心当たりがある。名子を審判で殺めたからでしょう。それが悪さをしてるんだわ。私が何とかしないと……印猫さまが」
「いやいや、待ちなされよ。そっちの事情はよく分からんけんど、単体で突っ込むのは危ないだろーが」
すると彼女は間髪入れず殴ってきた。「いてえー」
「じゃないと印猫さまが多多邪の宮さまに処分されちゃうかもしれないのよっ?!」




