ひさごじま の むすめ
島の方から新たな小型漁船──トロール船がやってきた。20代後半と思わしき女性が勇ましく、操縦室から出て船上を把握している。
「お、おお!瓢島の春夏さん。よ、良かった、気づいてくれてたのか…」
「無事だったんだおじちゃんたち」
安堵とどことなく落胆を含む、複雑なトーンで彼女は言った。
「死んでるって、どういう意味だよ?」
「死んでるんだ…それだけ。あれは久田さんで、アッチが吉田さん。よくよく見ればわかるはずよ。救難信号を出してそれから無言だったからアタシも見に来て…」
久田、と呼ばれた男が乗っている漁船に並行すると漁師たちは驚いた。
腐乱死体が乗った船が漂流している。さらに数人の漁師たちが転がっている。
正体はそれだった。
「何日漂流してた?!」
「1週間ぐらい…だ、と 思 う。アタシたちも必死に探して…そっちも何があったの?夜に煙が見えたけど…」
彼女は生存者たちに多少なりとも困惑しているみたいだった。
「あ、ああ、火事があったんだよっ!慌てて逃げてきて──」
「火事?何も起きてないようだったよ?」
彼女は不思議そうに眉をひそめる。
「い、いや、俺たち大火事と暴れた女衆から逃げてきたんだ。信じてくれよ」
「──んん、まー、確かに様子はおかしかった。後で警察に連絡する」
船に着いてきて、と、言いかけた彼女がふいに鋭い目つきになった。
「お兄ちゃんたち、どっから来たの?ここら辺の人じゃないでしょ?都会から?」
「東京からです」
「ふーん?」
女性は値踏みするように眺めると、護身用か漁の道具か、銛を手にしてガコンと船に上がってきた。
「おや。貴方からこの世の者でない部類の臭いがします。臭い。汚らしい臭いが」
「黙れ。…。だから?」
「人様に黙れなんてお里がしれますよ」




