すてられちゃった おんな
アリーは河川敷の橋の下で泣いている、スーツ姿の女性を見つけた。最初は入水するつもりかと、気にして話しかけた。
午前4時。日が昇るにはまだ暗い、肌寒い秋の──彼岸の季節。
だが、彼女は泣き腫らした目でこちらを見つめ、言葉を発した。
「捨てられちゃったんです」
どこか幼さのある言動で、のちのスコーク ナァ〜ごはまた泣いた。大切に信じていたヒトに見捨てられて、なぜか、生きていて、途方に暮れていると。
「ワタシが悪い子だから。破門されてしまったんです。もっと密接になりたくて、アノヒトの歴史を調べてしまったから──」
審判で突き放されてしまい、理解ができない。
アリーは彼女の言っている事が分からず、ただ眺めていた。茶髪と茶色の瞳、リクルートスーツ。たまに出没する厄介な害獣。
「貴方は誰?」
「アリー……──シダルヴァ。お前はどうして欲しい?」
「ワタシを殺めてください。終わらせてください……ワタシには未来が見えないンです。もう」
絶望した眼光に、ものすごくイラついた。あの眼が大嫌いだった。
未来を信じる気力すらなくした、破壊と自滅を望む強い光。
「なら、壊してやる」
「……貴方は優しいンですね。笑ってしまいます。壊すなんて、それじゃあ生かすのと同じじゃないですか」
30代か、分からないが彼女は見た目に反して純粋な子供めいた笑顔を浮かべる。
「優しい、か」
今まで優しいなど数える程しか言われた事がない。バカバカしいと鼻で笑おうとしたが、できなかった。
「印猫 我無比女……そんな、人物、いない。確かに大和政権が成立する以前、女王を頂点にして成り立っていたクニがあったとは思いますが」
歴史に詳しい、几帳面そうな助手が資料をまくりながら言う。
「大和政権は逆らうクニを平定しました。ならば負けたクニの記録は残らないでしょうね」
「該当しない軍団が元は人間だと、実証できると思ったのだが」
外の、平野はどんよりとくすんでいた。関東平野に突き刺さるビルと鉄塔のシルエット。ビルの窓から眺めると、奥行きがよく見える。
「何を。アリーさん。私たちも元は人間が多いじゃないですか。彼らもそうだとしても」
「人間には弱点がある。それを利用したいだけだ、サリエリ・クリウーチやスラッジから生まれた人間でない輩たちにはない弱点を」
スラッジは人を模した生き物を排出しては、伝書鳩を支える。だがこの世の者でない部類らしく人が何たるかを理解していない。
「人は弱い。化け物になってもな」
「そうですか……何ととらえればいいやら」
メガネの位置を直して助手は苦笑した。彼女はスーツを正して、廊下を歩いていった。
彼女とて若造ではない。この世の者でない部類のおぞましさを理解しているだろうに。




