ひけんたい かみさま ぜつぼう
「そんな事よりい、私の印猫さまに会わせて下さい。約束と違ウじゃないですかあ〜〜~」
「うるさい被検体だ。もう1発撃ち込むぞ」
アリーがあからさまに機嫌を害した。アレは確かにリクルートスーツを着た集団の一人だろう。
だが、何か違和感がある。
「あの、あの人とはどうやって知り合ったんですか? それより、アレらを捕まえるのは至難の業で」
「昔、徒魚をといえ稀代の禍根術士が残した書を用いて捕獲した。そうしてずっとこの部屋に封じ込めている」
(至愚さんの? そんなもの、あの人が残すか?)
パーラム一択だった彼女が書をしたためるだろうか? イメージと剥離している。
もっと己だけで捕まえてやる、と孤高を貫いていると思っていた。
「アレらには特定の咒が効くらしい。だが、他は分からない。そうしてなんでも食べる。毒だろうが、鉄だろうが。おぞましいよ。あんなのが存在していた時代があったなんぞ」
(それって、パビャ子と同じじゃないか。アレは本来のリクルートスーツの輩じゃない。型落ちした、何かだ)
脂汗が背中で不快感をもたらす。アリーは彼らの生態をよく存じていないようだ。かといって、ラファティも全てを知り尽くし対処している訳では無い。
「あ、あの印猫、とは?」
「彼女が信仰している、かみさまらしい。印猫 我無比女と最初は話してくれたが」
「し、知りませんね……該当しない軍団、または無該当化した者たちに唯一神がいるとは思えませんし、ガムノヒメと言うと古代の豪族を連想します」
「ほう。君は該当しない軍団の話になると頼りがいがあるな」
ニタリ、と感情のない黒目が細められ、我に返った。
「あ、いや、俺はただ、疑問に思った事を言っただけで」
「私の印猫さまは優しいンです! 励ましてくれるし、よく会いに来てくれるし! それに、それに」
「だから黙れ。殴られたいか?」
「お、女の人に暴力はダメですよっ!」
慌てて、アリーのイラつきを遮ったがさらに舌打ちされる。「私も女だがね? よく間違われるよ」
「あー、いや、すいません。でも暴力は良くないですよ……例え未知の生物だとしても、女性的だと」
ハハハ! と上背の鉄人が大笑いした。怖さのあまり漏らしそうになるが、堪えて口を噛んだ。
「紳士的で結構! アスケラくん、君も今日から研究対象だ。ああまではしない。週に一度、ここに来るように」
「は、はい……」
「彼女はスコーク ナァ〜ご。変な名前だが、彼女が名乗ったのだから仕方ない」
「わかりました」
自分自身と同じ漆黒の双眸に、情けない男が写っている。隣にはサリエリはいない。
だが、サリエリ・クリウーチは浮きながら溜息をつき、ジットリとかつての対立者をねめつけた。
「まったく、自分本位な要求しかしない癖に。まあ、僕もそうだったから立つ瀬もないが。──コイツも追い詰められているのかもな」
(何に? 名誉も地位もあるのに? 分からねえ、いいや、分かりたくもねえ)
スコーク ナァ〜ごさん 私は好きです。




