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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜 ☆かんたんの枕☆  作者: 犬冠 雲映子
とこはるなつふゆのひび サイカイ
25/27

にせもの てんシ は かみさま の ゆめ を みるか?

 アリー・ダシルヴァ。

 シャナリとした動作をした白いスーツの女性。かなりの長身で威圧感のある仏頂面、そうして誰を前にしても怖気付かずに見下してくる、その威厳。

 それが伝書鳩のトップの一人である。



「私の極秘にしている部屋だ。その意味は分かるね?」

「は、はい。誰にも言いません」

「物分りはいいようだ」

 カツカツとハイヒールの音が人気のない、埃くさい廊下に響く。

「ははっ、バカにされているな。言い返せやしないだろうな。君は」

 サリエリがやれやれ、と浮遊しながらついてくる。板挟みされ、ラファティ・アスケラは泣きそうだった。

 ビルの、ある階には使われていないスペースがあった。それはトップの意向で放置されていたし、他の者たちも興味がなかった。

 何があるのか。

 分かりたくもない。

「そこまで萎縮しなくていい。アスケラくんの命は保証されているのだから」

「どうかね」

 そういえば彼女たちは仲が最悪で、顔を合わせる度に睨み合っていたのを思い出す。なら、隣にいるのは偽物でもないのかもしれない。

(いや、んなわけあるかよ。アイツは消えたんだ)

「魂は不滅さ。ラフ、悲観的になるんじゃない」

(うるさい、うるさい! お前はっ……)

「こちらだよ」

 アリーの声色に思考を遮られる。オフィスビルにしては不似合いな重たい鉄扉が、軋みを上げてゆっくりと空いた。


「うっ」

 薬品と、武器が生み出す硝煙の残り香が鼻につく。

「アリーさん、やっとここから出してくれるんですかあ? 早く印猫さまに会わせて下さぁい」

 人の声がしてさらに気分が悪くなる。まさか、アリーは拷問をしていた? 誰も知られないように?

(なんで、俺にそれを?)

「あれ? この人も似たような感じがしますぅ? この人も実験するんですか?」

「どういう事だ? ナァ〜ご」

 ナァ〜ご、だなんてふざけた名前だな、とラファティ・アスケラは吐き気を堪えながら部屋を見てしまった。

 ズタズタになった壁、数多の凶器が折れて転がっている床。椅子に縛り付けられた──リクルートスーツを来た女性。

「え? この人、私と同じく、かみさまを待ち望んで(・・・・・・・・・・)、かみさまが見えてるじゃないですかあ? 同じくけんきゅーするんでしょ。それより早く印猫さまに会わせて下さい、約束したじゃないですかあ」

「ラファティ・アスケラくん?」

「し、知りません。俺はっ」

 かみさまを待ち望む? かみさまが見えている?

「アッハッハ! 僕がかみさまだって? ラフ、君はそんな風に見ていたのかい?」

「サリエリ、お前は」

「ほう、サリエリ・クリウーチ。君にはソレが見えていて、ソレによって変容しつつある、という事か」

 ニタリ、と冷徹な気味の悪い笑みがこちらを見下している。

「お、俺は精神的に不安定でっ! 幻覚がみえているだけなんですっ!」

 後ずさり、必死に弁解しようと──自らに言い聞かせる。

「安心してくださぁい。かみさま、は優しいですよお」

 ナァ〜ごという女性は清々しく破顔し、仲間だと言わんばかりに言い聞かせて(・・・・・・)きた。「ちがう!」

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