にせもの てんシ は かみさま の ゆめ を みるか?
アリー・ダシルヴァ。
シャナリとした動作をした白いスーツの女性。かなりの長身で威圧感のある仏頂面、そうして誰を前にしても怖気付かずに見下してくる、その威厳。
それが伝書鳩のトップの一人である。
「私の極秘にしている部屋だ。その意味は分かるね?」
「は、はい。誰にも言いません」
「物分りはいいようだ」
カツカツとハイヒールの音が人気のない、埃くさい廊下に響く。
「ははっ、バカにされているな。言い返せやしないだろうな。君は」
サリエリがやれやれ、と浮遊しながらついてくる。板挟みされ、ラファティ・アスケラは泣きそうだった。
ビルの、ある階には使われていないスペースがあった。それはトップの意向で放置されていたし、他の者たちも興味がなかった。
何があるのか。
分かりたくもない。
「そこまで萎縮しなくていい。アスケラくんの命は保証されているのだから」
「どうかね」
そういえば彼女たちは仲が最悪で、顔を合わせる度に睨み合っていたのを思い出す。なら、隣にいるのは偽物でもないのかもしれない。
(いや、んなわけあるかよ。アイツは消えたんだ)
「魂は不滅さ。ラフ、悲観的になるんじゃない」
(うるさい、うるさい! お前はっ……)
「こちらだよ」
アリーの声色に思考を遮られる。オフィスビルにしては不似合いな重たい鉄扉が、軋みを上げてゆっくりと空いた。
「うっ」
薬品と、武器が生み出す硝煙の残り香が鼻につく。
「アリーさん、やっとここから出してくれるんですかあ? 早く印猫さまに会わせて下さぁい」
人の声がしてさらに気分が悪くなる。まさか、アリーは拷問をしていた? 誰も知られないように?
(なんで、俺にそれを?)
「あれ? この人も似たような感じがしますぅ? この人も実験するんですか?」
「どういう事だ? ナァ〜ご」
ナァ〜ご、だなんてふざけた名前だな、とラファティ・アスケラは吐き気を堪えながら部屋を見てしまった。
ズタズタになった壁、数多の凶器が折れて転がっている床。椅子に縛り付けられた──リクルートスーツを来た女性。
「え? この人、私と同じく、かみさまを待ち望んで、かみさまが見えてるじゃないですかあ? 同じくけんきゅーするんでしょ。それより早く印猫さまに会わせて下さい、約束したじゃないですかあ」
「ラファティ・アスケラくん?」
「し、知りません。俺はっ」
かみさまを待ち望む? かみさまが見えている?
「アッハッハ! 僕がかみさまだって? ラフ、君はそんな風に見ていたのかい?」
「サリエリ、お前は」
「ほう、サリエリ・クリウーチ。君にはソレが見えていて、ソレによって変容しつつある、という事か」
ニタリ、と冷徹な気味の悪い笑みがこちらを見下している。
「お、俺は精神的に不安定でっ! 幻覚がみえているだけなんですっ!」
後ずさり、必死に弁解しようと──自らに言い聞かせる。
「安心してくださぁい。かみさま、は優しいですよお」
ナァ〜ごという女性は清々しく破顔し、仲間だと言わんばかりに言い聞かせてきた。「ちがう!」




