しまへ
渡河島は人口約6000人くらいの本州から少し離れた場所にある離島だ。近くには瓢島がある。今の燃料なら簡単にたどり着けられるだろう、と。
しかし島の漁船や島民が使用する無線は壊れているのか、倒港と共に何も受信も返答もしない。加えて恐怖すら覚えるほど海鳥が飛んでいなかった。あれだけ騒ぐ海が、シンと凪ぐ。
静けさだけがある、だだっ広い世界。
「アンタら、浮世離れしてんな。化け物じゃなねえだろーなァ??ほらよ、海坊主とか船幽霊だとかよ」
影があるか、足があるか、と二人に確かめられる。足がないからと言って幽霊ではない。
ミス(Miss)は苦笑しつつも嫌な方向へ空気が流れているのを危惧した。
「へえ。海坊主?僕たち、そんなに浮世離れしていますか?」
「ああ、あんなんがあってケロリとしやがってよォ。普通だったら俺たちゃみたいに錯乱するだろーが」
「…」
絶妙な間が流れる。
「ン、んだよ!」
「…。もっとすごいものを見てきたんで。僕は、ね」
南闇が人当たりの良い笑顔で、含みのある声色で言った。有無を言わせぬ気迫に彼はらは押し黙った。
「そうなんですか?!知りませんでした」
「はは、ミス(Miss)さんは相変わらず間抜けなリアクションしかしませんね。逆に安心します」
「な、な?!」
イラついた弱気な女子を他所に船の雰囲気は一変する。
「お、おい!見ろ、漁船だ!あっちの島のヤツだ!おーい!助けに来てくれたのか!」
人が佇んでいる──かの如く見えるが返事がない。というより微動だにしない。
「近寄ろう。風向きで聞こえねえのかもしれねー」
「はああ?まあ…シケてる訳じゃないのに変だな?」
漁師たちは話し合い、船をそちらにむける。何度も呼びかけるが彼らから返答はなかった。
「…大丈夫でしょうか。 嫌な予感がするんですよお」
「あはは!嫌な予感もいい予感も、この場においては逆効果でしかありませんよ」
「悪趣味人間」
二人は変に静まり返った漁船を眺めていた。するとある程度近寄り、全貌があらわになる。
人が倒れていた。それも何人も。佇んでいた、と錯覚したのは壁に寄りかかって絶命していていたからだ。
「お、おい、大丈夫かー!今助けに」
「──おっちゃんっ!!やめなよ!ソレは死んでる!」




