しのてんし いきた ここち が ないよ
──いつからだっけ。
「ラファティ。僕が見えているのか」
そこまで更けていない夜であった。デパートに併設された広場で『彼女』が立っていた。まるで待ち合わせをしているかの如く、こちらを待ち受けて。
チープな7色に光る丸椅子の下、革靴に反射するはずの色味がない。
あれは幻覚か、幽霊。
幽霊は居ないとパビャ子も至愚も、サリエリ・クリウーチも言っていった。
だが、目の前にいるのはそう断言していたサリエリ・クリウーチだった。
「良かった。君に会いに来たんだ」
「なあ、いつまで居るんだ? 帰る日とかあるのか? あー、俺の幻覚だもんな。帰るとかないよな」
適当に、自動販売機の飲料を選んだ。ホットコーヒー。
「君が僕を見たくなくなったら消えるさ」
「い、いや、そんな……そんな事言うなよ!」
1人で声を荒らげたのを恥じ、彼は近くで浮遊している旧友を眺めた。実際に存在してはいないのに、精密なCGの如くそこにいる。
試してみたが触れられはしなかった。
「君、だいぶ参ってきてるな。少し休んだらどうだい? 夜通し働いて、まるで現実逃避しているみたいだ」
「誰のせいだと思ってるんだ」
毒づき、伝書鳩の本部のビルに入る。防犯カメラには──サリエリ・クリウーチは映るのだろうか?
「眠るとお前が消える前の日を思い出すんだ。あと、お前と仲良かったギャビーがさ……」
「ギャビー・リッターが?」
「アイツももう居ない、って突きつけられてよ。次は俺なんじゃねえかな、ってなるんだ」
フン、と彼女は鼻で笑ってこちらを見下した。その態度に呆れと安堵が同在する。
「ああ、馬鹿らしい。幻覚と話すなんて」
「死の恐怖を紛らわすにはいいんじゃないか? それにラフ、早く忘れろ」
「忘れるかよ! 偽もんのギャビー・リッターでさえ消せなかったのに!」
すれ違った同胞が目を丸くして、こちらを見てきた。ハッと我に返るとそそくさと早歩きで、管理室へ向かう。
「ラファティ・アスケラ。少しいいかな?」
不意に声をかけられ、肩を震わせる。振り返ると伝書鳩のトップに着く、凛々しい女性がいた。
「あ、はい? な、何でしょう」
「君、パーラム・イターと合間見えたんだっけ? 彼らの、生態を知りたいんだ」
アリー・ダシルヴァ。上背の険しい顔をした兵士のような女性である。
「あ、ま、まあ……そこまで戦っては。指示はサリエリ・クリウーチがしていましたし」
サリエリ・クリウーチ、と口にして血の気が引いた。あまりその名を出したくない。
「おいおい。僕の名は呪文じゃないんだぞ?」
「私は秘密裏にパーラム・イターの生息状況、または彼らの上位存在らを研究している。謎が多いから」
「そうですよね。史料も、何も無いですし……」
パーラム・イターというトリックスターのなり損ないは歴史に悪目立ちし、それが消された集団の証拠を残してくれている。彼らは謎が多く、力が強すぎた。
天使たちも歯が立たないくらいに。
「協力してくれない?」
「え?」
「やめといた方がいい。この女はかつての僕くらいには最低な輩だ」
横入りするサリエリの言葉に動揺しそうになるが、冷たい笑顔が有無を言わせない。
「はい。是非とも」
やっとアリーさんを出せました。




