かんたん の マ くら
無意味名 パビャ子はフラフラと夜をさまよっていた。
すっかり冬になった季節にしてはチグハグで、たまに暖かくなったり、そうかと思えば酷く寒くなる。まるで彼岸の頃みたいだ。
彼岸。
パビャ子には何故だが染み付いて離れない言葉だった。別に彼岸で生まれた訳でも憧れている訳でもないのに。
「あっ」
それだけ呟いて、不意に視界に広がった蝶々の群れと彼岸花に驚いた。
夜道に不自然に蝶々がヒラリヒラリと舞う。美しいメタリックな色をした名のない蝶々。
対して赤々とした血の彼岸花は陰鬱としていた。
アスファルトには似つかわしくない。
大通りに続く向こう側はモヤがかかり、なぜだか延々と続いているかのような錯覚に陥った。生ぬるく春の匂い。
パビャ子はしゃがみこみ、彼岸花をひと房むしり取った。懐かしい気持ちになり、これは昔もしたのかもと手を止めた。
「あまり触れちゃいけないんだっけ?」
彼岸花を触ると危ないと、どこかで聞いた気がした。気がした、だけだった。だって彼女に常識を教える人はいないから。
蝶々たちがモヤの向こう側へ行こうよ、と誘う。花々の芳しい香りが風に乗って漂ってきた。
──あれが季節を狂わせている元凶なのか。
「乎代子。乎代子、そっちにいるの?」
誰かが立っている。乎代子だと思ったが、もう少し若い。だが髪型といい、雰囲気といい──似ている。
「ねえ、何これ? すんごい変な景色なんだけど?」
背後から本人である洞太 乎代子が声をかけてきた。
「あれ? なんで後ろにいるの?」
「ねえ、ソレなに?」
はあ? と乎代子は眉をひそめ、手に持っていた彼岸花を指さした。さっきまでみずみずしい赤さを放っていた花はただの指に変わっているではないか。
「化かされたねー、指に」
「指ぃ??」
「知らないよ、私も。でも指だらけだし、ほら」
モヤも蝶々も彼岸花も夢幻のように消え去り、あったのは小指ばかりだった。
「指切りげんまんだっ!」
「うわぁ……そう思うアンタが怖いよ……」
「じゃあ、指切りげんまんしよ!」
「やだよ!」
逃げていく乎代子を笑顔で追いかけ出したパビャ子。放り捨てられた小指は、転がり、ズリズリと集団でどこかへ消えていく。
指切りげんまん嘘ついたら、針千本のーます。
タイトル回収だと?!?




