わたるがじま さよなら さよなら はるか
しばし談笑していると、いつの間に本州からフェリーを呼んだらしく、港まで巫女さんがお見送りしてくれるという。この後、天竺の世渡とどう移住して行くかを話し合うらしい。
「そこの多云さんを連れて、東京へ戻りなさい。さすれば難は逃れる。と、世渡さまは言っていました。頑張ってくださいね」
ピシリとした一礼をし、やってきたフェリーを見つけると手を振る。相手も手を振る、事から知人のようだ。
「ありがとうございます。そうします」
「多云ちゃん、よろしくね」
「チャカナ〜」
船を寄越してくれた観光協会の人たち二人は──彼らはこの世の者でない部類らしく、人の世に紛れて住んでいる部類らしい。今回の出来事には驚いているが、兎にも角にも今は生活に従事すると。
「ああ、南闇さん。くれぐれも至愚には入れ込むな、と仰っております。彼女は優しい人ではありません。鵜呑みにせぬよう……」
南闇は振り返り、静かに爽やかな笑みのまま、沈黙した。
「さあ、フェリーが発ちますから早く」
「お二人さん。ご苦労だった。倒町の話は聞いたよ。ありがとうな」
旅客船の操縦士が必死に感情を押し殺した声で、こちらに礼を言う。どう反応していいか迷っているミス(Miss)の横で、彼は相槌を打ち、言葉なく同意した──かのような反応を見せた。
「何だか穏やかすぎて、拍子抜けしました。倒港が強烈すぎて……それよりお腹がすいちゃって……」
波に揺られながら、ミス(Miss)はカモメが遠巻きで群れをなして鳴いているのを見やる。
「穏やかで良かったじゃないですか。ところでミス(Miss)さん、そのサスマタ、いつまで持ってるんですか?」
「ここから離れたらです」
グウウ〜〜~、と腹が鳴っている。ヘトヘトで疲労感もひどい。
「ハア……散々だっ……」
「おかあさーん!!! あのねー、」
波音にかき消されそうな、人の声がした。不意に視線を向けると、春夏が乗ってきたトロール船があった。
「ああ、あれももうダメそうですね」
佇む血まみれの春夏が笑っている。母親と父親がいると、楽しそうに喚きながら頭に銛を刺し続けていた。
「やはり不良品は不良品か」
南闇がつまらなそうに言う。
「不良品って無機質じゃないんですから」
「ハハ! ミス(Miss)さんも化け物じみて来ましたね」
春夏さんは今後、違う場所で神様の『影響』を広げて行くのでしょう。




