かくされ さらわれ
とある街に住む少女は、一世代前で言う鍵っ子であった。
核家族……共働き家庭で、両親は不仲。言い争いが絶えず、彼らは顔を合わす事もない。
夜ご飯は物心がつく頃には雑に置かれたコンビニ食材と駄菓子だった。
それでも少女は小学生なりに楽しく暮らすための努力をしている。家事を率先してやってみたり、母親を労ったりもしたが……鬱陶しがられているだけだった。
幼い彼女には夢がある。
クラスメイトから聞いた不思議な噂話だ。
「カクシノミヤさまにお願いをすると、楽しい場所へ連れて行ってもらえるんだって〜」
カクシノミヤ? と少女は聞いた事のない言葉だと訝しんだが、小学生のましてや低学年にはおまじないが流行る。氷に名前を書く、水鏡の恋まじない。様々なおまじないが伝播していた。
しかしカクシノミヤさまには危険が伴うという、タブーを冒すと帰って来れなくなってしまう場合があるのだそうだ。
タブーとは何だろうか?
少女の家にはスマートフォンはない、パソコンは両親が持ち運びしている。
とりあえず、クラスメイトから聞いた手順をやってみようと、赤いマーカーペンで画用紙に鳥居に似た扉を描いた。
そこが入口。
部屋を真っ暗にして、まずお供え物をする。お酒――父親の物を借りた――生ゴミの破片、そうして魚の頭。
「カクシノミヤさま、カクシノミヤさま。どうか私を違う世界に連れて行ってください」
手を合わせ、しばらくしてこのおまじないはやはり偽物だと落胆する。
「いいよぉ。こんばんわ、貴方の名前は? 」
「陽奈、です」
「そう、ヒナちゃん。こんばんわ! どんな世界に行きたい??」
背後からヌッと現れたのは薄笑いを貼り付けた女性だった。浮き世離れした雰囲気をまとう、不思議な格好をしたひと。
この人がカクシノミヤさま? 拍子抜けしたが、怖くはなさそうだ。
「おばあちゃんとおじいちゃんが住んでいた村みたいな、楽しい所!」
「りょ〜〜かい! じゃあ、お母さんとお父さんは?」
「いないから、要らないよっ! ねえ、お姉さん。二人だけの秘密だよ」
「お母さんとお父さん、要らないんだね? はーい」
女性は軽薄な嗤いを貼り付けて、指を鳴らすと眼の前にドアが現れ、見慣れた世界が広がっていた。
「わあ! すごい!」
「じゃあ、たくさん遊ぼう! 疲れ果てて動けなくなるまで、ね」
「うん!!」
懐かしい祖父母の村の景色。少女はためらいもなく、腕を引かれてドアに吸い込まれる。
数カ月後。村の用水路で一部白骨化した遺体が見つかった。歯と肉を削がれた状態の子供を村人が見つけたのだった。
そうして遺体の両親と思わしき遺体も、アパートのリビングでバラバラにされて発見されたという。
燃やされた画用紙と邪教絡みだと思わしき供物に、世間はどよめいた。
クラスメイトはあの子は素直な子だった、と言う。
そうして裏で儀式の肝心なタブーを教えなかった事を悔やむ。
カクシノミヤさまには名を名乗ってはいけない。




