しかつとうしょ
「お師匠さまの他人の空似かあ、世界には3人似てる人がいるんだっけ〜〜?」
悪野狗 嗤使はいつだか聞いた噂話を思い出した。
世界には3人、そっくりな人がいる。3人目に遭遇すると自分自身は死んでしまうという。
ドッペルゲンガーと何が違うのか? いや、その内容だったか?
雨模様の中で、彼女はしばし考えた。
「ソイツがお師匠さまに会えば消えるのに」
ペテン師で霊験あらたかな拝み屋のフリをするロウコという輩。師匠とは天と地の差がある。
ものすごくイライラした。
「何を苛ついているのですか」
背後から声をかけられ、振り返るとかの師匠がいる。尼の格好をした彼女は雨の中、常に共にいるテンを連れてさまよっていたらしい。
「あ、あの、こないだの事を思い出していただけで、」
「ああ、ワタクシにそっくりな拝み屋の件ですか」
人気が無いデパートの広場は雨の音と水気を含んだ風の匂いが支配している。
誰も居ない。それはそうか、雨が降ったら外出も嫌になる。
交番の明かりが煌々と光り、二人は雨宿りをした。
「ワタクシもさして、聖人君子ではありませんよ。ワラシ」
「え」
「もしも今の身にならなければ地獄の死活等処や野干吼処へ向かわされ、永遠の責め苦を味わっていたでしょう」
穏やかに言う尼の内容は似つかわしくないものだった。
「しかつとうしょ……?」
「そう、地獄で極楽があると勘違いして殺到するのです。そうしてまた突き落とされる。ワタクシはそれほどに酷い事をしてきた、そうしてソレを続けていくつもりなのですよ」
夜間 青蓮華幻林は使いのテンを撫でると、またいつもの卑下た嗤いを浮かべた。
「きっと彼女も、同じように地獄で苦しむのでしょうね……地獄が、あるのならば、の話ですけれども」
「地獄かぁ。ワラシちゃんはお師匠さまと一緒がいい〜〜」
「何も分かっていないくせに」
二人でクスリと笑うと、雨の音に耳を傾けた。




