たたたのみや の おしりあい
洞窟の奥まった先に──小型の鳥居と、紙垂、様々な形をした御幣がたくさん飾り付けられている。その中に蹲る『何か』がいた。
「──阿字母さまのご眷属がこられました」
『神さま』はかなりの巨大さだった。闇と岩肌の合間に身を収め、ジッとしている。水族館で見たナマコに似ているとミス(Miss)は変な感想を抱く。
ナマコに似てはいるが、能面が付けられていた。付けられている、というよりは顔を示しているのか。
般若の面や狐面ではなく、見慣れない能面であった。──小尉。彼女は知らないが神格を表す面である。
神の使い、妃子はお茶を出してくれた。ミス(Miss)は恐る恐る口にしたがスンナリ喉を通る。
「お、美味しい! お茶だあ!」
「そこまで褒めてもらえるなんて。嬉しいです」
見た目は普通の人間であり、歳もミス(Miss)と変わりがない。ヨリマシといい、眷属ともいうらしい。
「阿字母をご存知なのですか?」
(えっ、南闇さんは知っている?? )
「ええ、あなた方の祖の第一眷属である『麻宇汝旴愧堕焚邪命様』のような立ち位置です」
南闇は笑顔のままだが、ミス(Miss)は大いに驚いた。
「た、多多邪の宮……?」
「わたくしどもはかの阿字母様をご存知です。残念ながら何らかの理由で世間は忘れているようですが。僻地ではまだ覚えている神々がおられますよ?」
僻地。確かに孤島ではあるが……。
「阿字母……。それが私たちの神さま?? なのですね」
「はい。あなた方の祖は神仏分離令の際に神道系を容認した善狐なる存在たちにうち滅ぼされたのです」
「よ、よいこ?」
善なる狐、と書く。阿字母の兄妹に近い存在なのだそうだ。
「彼らは絶対的信頼を置かれています。気をつけて」
巫女は茶を継ぎ足し、晴れ晴れとした笑みを称えている。島民が消えたというのに。
「きっとあなた方が私たちへ行き会えたのも、きっと阿字母さまの計らいでしょう。そうして多多邪の宮さまも貴方たちの神力が目覚めるのを待っているのです」
「私たちはただの下っ端で──」
ヨリマシは微笑むと鉱石を渡してきた。
「これは阿字母さまと神さまが交流していた歳の献上品でございます。また渡してくださいな」
恭しい素振りに困惑していると、南闇が代わりに受けとる。
「阿字母……名しか知らない、神でした。まあ、これからも知りえないのでしょうね」
「辰狐王菩薩、世ではそう呼ばれておりましたよ」
「あ、あの、倒漁港で不思議な神? に出会いました。老人で笑って消えていったのですが……知りませんか? あれが、貴方たちの島を食べた者なのですか?」
「いいえ、きっと海坊主でしょう。海坊主、と呼ばれていますがとっても良いお方ですよ」
「じゃあ、春夏さんという女性が拾ったのは」
「ああ、呪具です」
「呪具?」
──春夏が拾った『腐った類い』は禍根の術士が作ったダミーのこの世の者でない部類らしい。




