てんじく の わたせ さま の みこ
彼女と形容すべきか、不思議な犬に、素直に誘導されると、参道と思わしき道へ続いていた。山の上に天竺の渡世さまはいるらしい。
「じゅつし、ばけもにょ、つくった! でも天竺の渡世さま、まもった! だからあんしん!」
術士。ミス(Miss)は至愚の姿が脳裏に浮かぶ。水蛭子を術士が?
「貴方はなんでそれを?」
「あたゃ、タウン! 多云、my name is 多云!」
多云。不思議な響きの名を持つこの世の者でない部類であった。
「多云さん、水蛭子や術士を存じているくらいならば──それは芝居なのでしょう?」
「……。芝居をやめたら、ややこしくなる。……多云、優しいから!」
(南闇さんの不機嫌モードが上がってる……)
なめられるのが案外嫌いな南闇はあからさまな態度を示した。笑顔の奥に殺意ともつかぬ、陰険さが滲み出ている。
「あ、あの、多云さん。あの水蛭子はどうすべきなのかな……? ほうっていい? それか」
「海外の船、連れて行ってくれるよ。その前に『ヨリマシ』が作られるだろう。それが、連れて、行ってくれるよ。みす」
ミス(Miss)は無意識に、春夏を連想した。
あの娘は神もどきを手にして、理想の神を作ってしまったのか。では自分自身を形作っている何かも最初はこうだったのか?
階段の最上、鳥居がある。岩でできた威厳ある鳥居は潮風に紙垂を揺らしていた。
二人はくぐると、社務所に灯りが着いているのに気がつく。2週間前の痕跡だろうか?
「あら、来ましたか?」
声がするなり、
「妃子と申します。島の神社の、巫女をしています。まあ……こうなっては神社の機能も果たさなくなったのですが」
美麗な女性が巫女装束をまとい、社務所から現れた。
社務所には護符や御守りが売られ、見慣れた景色が広がっている。『崇辜海神社』と扁額に刻まれており、無人化するまで人々に手入れされていたのだろう。
「あのう。無事だったんですね。良かった」
「私はこの世の者でない部類ですので、呪具には人と判別されなかったのかもしれません」
「え!」
20代にしか見えぬ女性はさしてどうでもいい事のように、いってのけた。
「人間からしたら、神様の使いと表現すれば良いですかね。私はそのような存在なのです。何千年前から」
(神さまの使い……)
何千年と神に仕えてきた、その凄みを隠しているのは人に紛れる技なのか。
「驚きました。貴方のような、貴重な存在がいるとは」
南闇も珍しく本音を漏らしている。
「貴方たちも貴重な存在ですよ? さあ、天竺の渡世さまがお待ちしております」
「あ、は、はい!」




