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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界シリーズ

他種族から見た日本

作者: Zwei

小説書くのって難しいですね。特に地の文が難しい……。

「……ハァッ!……ハァっ!ヨハンナ!ルキア!走って!!」


「お母さん!」


「ママ…もうそこまできてるよぉ……」


私は娘二人の手を引いてひた走る。この精霊の森に入ったお蔭で私たちだけではなく、村の皆も今のところ無事だ。

だが、人間たちはすぐそこまで迫っている。

なんでいつも私たちは虐げられるのだろう。ちょっと前には村一番の美人だったオクタウィアが連れていかれ、数日後に四肢を切り落とされ、全裸の状態で、さらに発狂して戻された。

彼女を連れてきた人間の兵士の『具合は良かったがな。もう何の反応もしねぇし返すわ。最初は泣き叫んで面白かったがなwww』と下卑た笑いを忘れることはないだろう。

ついこの前は近くのカッツェ族の村が、『浄化』の名目で焼き払われた。村人は全員生きたまま焼き殺された。

私たちが何をしたと言うの?ただ平穏に暮らしたいだけなのに!


「森を抜けるぞ!」


村一番のお調子者マリウスが叫ぶ。森を抜けたら国境は直ぐだ。神聖帝国とは言え、国を跨いで進軍はしないだろう。隣国の王国は神聖帝国よりも他種族差別は少ないと聞く。


「ヨハンナ!ルキア!もうすぐよ!」


「うん……!」


「あしいたいよぉ……」


王国まで行けば、『エルフ族だから』と言うだけで殺されることはないだろう。私は最後の希望に縋り足に力を込めた。森を抜ける。

そこには……


「そんな……」


そこには、国境線があると思しき平原に数百人の人間がいた。緑色の服を着て武器らしきものをそれぞれ持っている。後ろには巨大な機械ーー魔導兵器だろうか?ーーも見える。

王国ですら私たちを排除に乗り出したのだというの?

緑服の人間たちが何かを叫んでいるが、魔力切れで翻訳魔法の効果が切れているため何を言っているのか理解できない。『耳長は森に帰れ』とでも言っているのだろうか?


遶九■豁「縺セ繧!(立ち止まらないで!)襍ー縺」縺ヲ!(走って!)


蜊ア縺ェ縺!(危ない!)蠕後m!(後ろ!)


緑服の男たちが指さす方向を見ると、神聖帝国の兵士がルキアに向かって剣を振り下ろす所だった。


「やめてえぇぇぇぇぇ!!!!」


ルキアはまだ5歳。先日慎ましくも誕生日を祝ったばかりだった。

大好きなフラガリア(いちご)のケーキを作ってあげたら『らいねんもつくって!』とクリームで口の周りをベタベタにしながら満面の笑みだったルキア。

精霊に導かれて、この世に生まれ出でて5年。ここで殺されたらこの娘は何のために生まれてきたの!?


菫晁ュキ蟇セ雎(保護対象者への)閠∈縺ョ諤・ォ荳肴!(急迫不正の侵害確認!)莉逅閾(代理で)陦帶ィゥ繧定逋コ遐!(自衛権を行使!)豁」蠖馴亟陦帛(正当防衛射撃を)茶繧貞溯!(実行せよ!)


莠?ァ!(了解)


タタタタタン!と小規模な爆裂魔法のような音がしたと思ったら、神聖帝国の兵士が血を噴き出しながら倒れた。

彼らが助けてくれたという……の?


莠?ァ(走れ!)


煙が出ている筒のような物を持った人物が何かを叫びながら手招きしている。

人間に不信感はあるが、助けてくれたのなら悪い扱いはしないだろう。


「ヨハンナ!ルキア!行くわよ!」


「……でも、お母さん!」


ヨハンナは友だちのサビーナちゃんが、人間に遊び半分で嬲り殺しにされた過去もあり、やはり抵抗感があるようだ。

しかし、私は可愛い娘たちがこのまま殺されるのを黙って見ていたくない。それこそ、この身をあの緑服の兵士に差し出しても守らなくては……!

走り出した私たちに釣られ、村の人たちも次々に走り出す。

とても長い距離に見えたが、走り出したら一瞬だった。私たちが到着して5分くらいの後、最後のウルシヌス爺とドルシッラ婆が息を切らせたどり着いた。


菫晁ュキ蟇セ雎(保護対象者を)蜈ィ縺ヲ遒コ菫晢シ(全て確保!)


全員が国境を抜けた後、緑服の兵士が何やら叫ぶ。その後は不気味な空飛ぶ機械に乗せられ、近くの海に停泊していたとんでもなく大きな船に乗り換えた。

そこでは娘二人と抱き合い、泣きながら生きて逃げられた事を喜んだ。


螟ァ荳亥ォ縺ァ縺?(大丈夫ですか?)諤ェ謌代縺ゅj縺セ?(怪我はありませんか?)


喜びあっている最中、一人の兵士が声をかけてきた。

あの平原で煙立つ筒を持っていた兵士だ。

だが、やはり言葉が分からない。

どうしようか悩んでいると、彼の後ろにいた別の兵士ーー声からして女性のようだーー声をかけた。


蟆城嚏髟(小隊長)繧ィ繝ォ繝募・ウ邇九(エルフ女王から借りた)謖シェ繧貞オ後縺……(指輪を嵌めないと……)


縺翫……窶ヲ窶ヲ縺昴(おぉ……そうだったな)


兵士が指輪を嵌めると、なんと言葉が通じるようになった。

あの指輪はまさか、エルフ王家が信頼できる者にしか渡さないという、賢者の指輪……?


「あー…あー……私の言葉がわかりますか?」


「は…はい……」


「それは良かった。では、改めて……日本国陸上自衛隊国際救難救援隊の者です。本日はエルフ女王の要請により、あなた方を救助に来ました。

甲板は寒いでしょうから後は中で話しましょう」


そう言うと彼は私たちにブランケットを手渡してくれた。とても温かい。船の中では温かいスープも用意してくれているという。

何故こんなにも彼らは優しいのだろう?目頭が熱くなる。

彼らに促されるまま移動しようとした時、ヨハンナが驚愕の表情で一点を見つめていた。


「ヨハンナ……?」


「お、お母さん……あれ……」


指差す方向を見ると、何かがはためいている。旗であろうが、その旗を見た瞬間、私もヨハンナと同じく固まってしまった。


「あれは……!太陽の紋章……!!」


そう。そこにあったのは威風堂々と翻る太陽の紋章が記された旗だった。

昔子どもだった頃にウルシヌス爺から聞かされた事がある。


『昔々、細々と平和に暮らしておったエルフ族が人間から侵略を受けて、それはもうたくさんのエルフが殺された。

当時のエルフは嘆き悲しみ、精霊に祈った。とうか助けてください。侵略者を撃退してください……とな。

その祈りは届き、どこからともなく太陽の紋章を掲げた船が海より現れてあっという間に侵略者を倒してしまったんじゃ。

彼らは名乗らなかったが、その船の名前は誇らしく語ったそうじゃ。

たしか……テイコクカイグン・ウネビとな』


そこまで聞くと子供だましの昔話だが、この話には続きがあった。


『ワシもあの件があるまで子供だましだと思っておったよ。

しかしな、ワシが幼い頃に大規模なエルフ狩りがあった。ワシらは先人に倣って精霊に祈った。するとやはりどこからともなく、爆音を響かせながら太陽の紋章を翼に描いた飛行機械が現れ、ワシらを助けてくれたのじゃ』


昔話ならまだしも、見知った人が経験した話を否定はできない。

ということは、彼らは精霊の御使い……!?


「お?自衛隊旗が気になるかい?」


「ジエイタイキ……?」


「ああ。君たちに分かりやすく言えば軍旗かな?まあ、あれは陸自じゃなくて、この船ーーいずもの旗だから海自さんの旗だかね」


やはり彼らは精霊の御使いに違いない!

横で聞いていたみんながジエイタイキ?に祈り始めた。私たちも跪き、祈る。


「え?小隊長、何言ったんですか?」


「いや、俺は自衛隊旗の事を教えただけだ。

……しかし、こんなに旭日旗を有難がるなんて、元の世界とは違うな」


「あっちでは酷かったですからね。旭日旗を掲げるなら入国させない!とか言う国もありましたし」


「……言うなよ」


ーーその後、私たちは船の中に案内され、温かなトマトスープを頂き、事情聴取を受けた。

その際、サビーナちゃんの話を聞いた女性兵士が泣き出し娘たちを抱きしめてくれたこと、オクタウィアの事を聞いたショウタイチョウさんが憤怒の表情でグラスを握り潰し「……クズどもが」と言ってくれたことを私はこれまでと違い、良い意味で一生忘れない。


ああ……こんなにも優しい人たちがいるなら、この世はまだまだ捨てたものじゃない。















「以上の理由により、ニホンは我が神聖トスコルーノ帝国へ1週間以内に奴隷1,000人と帝国金貨1万枚を支払いなさい」


豪華な部屋の中。スーツ姿の日本人5名と、先ほどの発言をした16〜7歳くらいの少女を含めた6人の白装束の集団がテーブルを挟んで相対していた。

スーツ姿の男性ーー日本国使節代表が疑問を呈する。


「まず初めに、何故わが国がその様な要求をされなければいけないので?」


「要求ではなく命令です。疾く手続きを行うように」


代表は眉間を揉みながら続ける。


「ですから、その要求ーー命令でも良いですが、それを求められる謂れはないのですが?」


そう言うと、少女の右に座っていたブルドッグの様な外見の肥えた中年男性が声を荒げる。


「それは貴様らの国が、蛮族狩りを行なっていた神聖なる我が国の兵士を殺したからであろう!!聖女様が仰る通り、賠償金を支払えば良いのだ!!」


どうやら少女は聖女らしい。

プルプル贅肉を揺らしながら、唾を飛ばす男性に代表は内心『汚ぇなぁ……』と思いながらも話を続ける。


「蛮族狩り……?わが国が行ったのは、エルフ女王より要請があった救助活動ですよ?『エルフ族が虐殺されそうになっている。助けてたもれ』とね」


5年前、不幸な行き違いから国交断絶したが、去年再度友好国となった王国を介してエルフ国の女王から救難要請が来たのは、今から1ヶ月前だ。

神聖帝国は、いわゆる人族至上主義を掲げており、他種族を軒並み虐殺してまわっている。他国のことなので手を出せない事に歯痒い思いをしていた日本政府だったが、女王の要請を受け入れここぞとばかりに介入したのだ。


「人間以下の蛮族を処分する事の何処がいけないのですか?

そう言えばあなた方ニホンは猫亜人を処分した時も文句を言ってきましたね。畏れ多くも我が国に」


聖女は馬鹿にしたように言う。

使節団は顔を顰め、怒りを押し込めているようだ。


「我々の前で亜人などと差別用語は言わないで頂きたい。彼らは猫亜人ではなく、カッツェ族という確固として存在する種族です」


「あなた方は人間以下の家畜を庇うと?」


代表は怒りで震える手で眼鏡を押し上げ、深呼吸する。

冷静になれ。びーくーるだ俺。

心のなかで言い聞かせる。


「人間以下の家畜と仰いましたが、では逆にお尋ねします。彼らより人間が優れているところは?

魔力?でもエルフ族には敵わない。

腕力?でもヴォルフ族やオーガ族には敵わない。

素早さ?でもカッツェ族やフォーゲル族には敵わない。

技術力?でもツヴェルク族には敵わない。

では、彼らより人間が優れているのは?

繁殖力?そのくらいでしょう」


イライラしてるのか、早口でまくし立てる代表。いつもはクールに粛々と物事を進める彼なのだが、今回の感情を顕にした事に使節団の面々も驚いている。


「それは人間が神に選ばれた種族に他ならないからですよ。我々は選ばれた民ですよ。何の問題が?

それとも、ニホン人は神を信じないと?」


「いえ、我々も神は信じていますよ。ただ、神を騙る人物は信用しませんがね」


横の中年男性(ブルドッグ)が顔を真っ赤にして何かを言おうとした瞬間、聖女に止められる。


「……神を騙るとは。私たちを馬鹿にしているのですか?」


それを聞いて、ハァーーーー……と深いため息を吐き、頭をガシガシ掻きながら代表はネクタイを解く。


「バカにはしてねぇよ。バカだと思ってるだけだ」


暴言とも言える発言に、聖女は全身を震わせる。激怒しているようだ。

というか、代表の言葉づかいが乱暴になっている。どうやら、我慢の限界が来たようだ。

交渉を任されている役人としては落第であろうが、これも人間らしさと言うべきか。まあ、相手がかなり舐めた態度と発言なので仕方ない気もするが。

代表はNO!と言える日本人なのである。


「何と言う……!」


「いいか?あんたらの言い分は『人間は神に選ばれた!だから何をしてもいいんだ!』ってこったろ?ふざけんなよ。どこの神さんがんなこと言ったよ?」


ワイシャツの第2ボタンまて開襟した代表は、チンピラのように…本職のように問い詰める。

周りの使節団は顔を真っ青にしている。交渉決裂を危惧しているのだろうか?

いや、違う。ボソボソと『うわぁ…ガチギレしちゃってるよ……』『昔の顔が出てるっすよ、代表……』だのと話ている。

昔の顔とは……?もしかして、マジモンのチンピラだった?


「それは神の言葉を疑うと?」


「あ?神さんがそう言ったのかって聞いてんだよ。誰しもが神さんの声を聞いてんのか?他種族を虐げるのが常識なのか?」


「畏れ多くも、神の声をきけるのは私、聖女とそちらにおわす法皇猊下だけです」


チラリと隣に目を向ける聖女。

そこには70歳くらいの、立派な髭を蓄えた一際豪華な装束に身を包んだ老人がいる。

その老人こそ、法皇であり宗教国家である神聖帝国の国家元首でもある人物だ。


「だったらテメェらの言葉だろうが」


特定の人物しか聞こえない声なら、口裏を合わせれば良いので捏造は簡単だ。

だんだんと年若い女性にあるまじき表情になってくる聖女。


「……私たちが嘘をついていると?」


「そう言ってんだろうが。脳みそ詰まってんのか?」


「なんと不敬な……!」


「第一、前の世界の神さんは無限の愛を持っているっつー話だったが、ここでは違うのか?」


ここの無限の愛(アガペー)とはキリスト教の用語である。

唯一神のヤハウェ(エホバ)から人間への無条件・無償の愛、および人間同士の隣人愛を表す言葉である。


「我が大いなる神も無限の愛を持っていらっしゃいます……!!」


「馬鹿にしてんのか?無限の愛なら、何で他種族を虐げてんだよ。その時点で

有限の愛だろうが。なんて器の小っせぇ神さんだよ」


因みにこの言葉は少し改変しているが、エ◯バの証人に勧誘された作者が相手に叩きつけた言葉である。


「もう我慢ならん!神殿騎士よ!此奴の首を刎ねよ!」


横の中年男性(ブルドッグ)が、やはり唾を飛ばしながら叫ぶ。

さすがに神聖帝国側も嫌な顔をしている。


「あ?やられたからにはやり返すぞ、コラ」


そう言って代表が睨みつけながら言葉を返す。やり合ってもここにいる護衛の自衛官は20式自動小銃を持っているので勝敗は明らかだが。


「やめよ!」


ここでやっと法皇が動いた。何故今まで動かなかったのだろう?もしかして、聖女に経験と箔をつけたかったのだろうか?


「ほ、法皇猊下……」


「使節殿。そちらが折れてくれれば丸く収まるのだ。ニホンが謝罪したことにすればこちらの権威も傷つかずに済む。どうか、今回だけは譲ってくれぬか?」


傲慢にも程がある。何故他国の面子を守るために自国民を差し出さなければならないのだろうか?

こういう人間に限って、自分が同じ事を要求されたら断固といて断るのだろう。


「お断りだ、馬鹿野郎。なんでテメェらの権威(笑)を守るために、こっちの大切な国民を差し出さなきゃなんねーんだよ。第一、お前らに権威なんてあんのか?」


「もちろん。人間を守り、外敵から護る。さすれば信仰も深まり、この国の様な楽園が形成される。と同時に指導者たる我々の権威も固まる」


ここまで来ると気持ち悪さを感じる。彼は自分の言葉が間違っていると感じていないようたし、自分たちの要求(命令)が無条件で受け入れられると思っているようだ。

地球に過去存在した宗教国家もこの様な国だったのだろうか?


「ハッ!人間を守るだぁ?楽園だぁ?楽園だっつーならなんでこの聖都(笑)にスラムがあるんだよ。言っとくが、俺は職業柄色々な国に行ったが、ここのスラムが一番ヒデーぞ。なんせ飢えに苦しんで、死んだ自分の赤ん坊を食ってる母親も居たくらいだからなぁ。これの何処が楽園だよ。

……あぁ、お前らにとっちゃ楽園かもな。信者が金を運んで来て贅沢三昧だもんなぁ?」


喧々囂々と言い合っていると、部屋の中扉が開き、白装束を来た若い女性が駆け込んできた。びっしょりと汗を掻き、何やら相当焦っているようだ。あせだけに。


「法皇猊下!聖女様!大変です!」


「どうした?」


「反乱です!」


「神殿騎士団を向かわせよ」


女性は息を切らせながらそう叫ぶ。しかし法皇は冷静……というより、興味がないようにそう言う。これまでも反乱は起こったが、神殿騎士団が首謀者と参加者を、老若男女問わず虐殺して食い止めていたからだ。


「それが……神殿騎士団長が民衆を率いているのです!」


「なんだと!?」

 

ここでやっと法皇が驚愕の表情をする。

それはそうだろう。一番信頼し、側においていた人物が反乱の首謀者だったからだ。


「ほぉ?どうやら、内部にもまともな奴がいたみてーだな」


代表がそう言うと、入り口の扉から鎧姿の男性と、襤褸を着た男女数名がなだれ込んできた。男性は剣で、襤褸を着た男女らは鋤や鍬、鎌で武装をしている。農民だろうか?

この一瞬で伝達に来た女性が農民の男性から農業用フォークで腹を刺された。出血量からして内臓を傷つけたようでもう助からないだろう。『なんで私が……死にたくない……』と呟いているが、残念ながら反乱とはこういうものである。


「枢機卿猊下、聖女様。抵抗はしないで頂きたい」


聖女たちに剣を向ける団長。その顔は悲しみに彩られている。聖女は俯きその表情は伺いしれない。


「神殿騎士長……何故ですか……?」


「聖女様。私はもう見ていられないのです。死んでミイラになった我が子を助けてくれ助けてくれと嘆く母親を。

子どもを生かすために、自身の肉を食べさせる父親を」


「テメェらが贅沢してる裏側ではこんな事が日常茶飯事なんだよ」


代表は飄々とそう言うが、あまりにも強く握りしめた手のひらは、爪が突き刺さり血が出ている。

ふと、団長が勝手な動きをしないように農民たちを抑えながら、今気づいたように使節団へと目を向けた。


「あなた方はニホンの使節団でしょうか。枢機卿猊下たちの味方をするのであれば覚悟をしていただきたい」


覚悟とは即ち『死』であろう。

団長を見た代表は眼鏡をかけ直し、シャツのボタンを閉めネクタイを結び直す。


「……貴殿とは後ほどしっかりと話をしたいですな。ああ、別に私たちは彼らの味方を するつもりはありませんよ。連れて行っていただいて結構」


「そうでしたか。おい」


そう言うと農民が前に出て法皇たちの拘束を行う。恨みのためか、骸骨と見紛うガリガリのやせ細った体なのにとんでもない力で拘束用の縄を締め上げる。

その目はやはり恨みのためかギラギラとしていた。


「汚れた手で触るな!私は法皇であるぞ!」


「騎士団長さま!何故!私は貴方を愛していたのに!!」


この期に及んで傲慢な言動を崩さない法皇と、何を思ったかいきなり告白する聖女。

その叫びを他所に、扉は閉められた。



・その後のエルフ母親

その他のエルフがエルフ国に移住する中、日本に留まる事を選んだ。

今は異世界語を翻訳する職業に就いている。

実は未婚であり、娘たちは人間に遊び半分で無理矢理産まされた。しかし、産まれてくる子に罪は無いので、きちんと愛し育てる事を誓うというかなり出来た女性。

日本を離れたからない理由は、どうやら気になる男性がいるようで……。

下の娘であるルキアがその男性を思わず『おとーしゃん』と呼んだことにより、ある決心をする。まあ、成人女性の決心とはアレですよ。


・その後のヨハンナ

過去の事により人間に心を開かなかったが、献身的に支えてくれた色んな日本人のお蔭で、普通の少女として暮らせるまでになった。

最近は思春期という事もあり、好きになっちゃった男性がいるようだが、それが悩みの種。まさか、自分が好きになった男性とお母さんが結婚するとは……!

なお、妹のルキアとは血が繋がっていない。


・その後のルキア

日本に来て目新しい物や美味しい食べ物がいっぱいでキャッキャしている。

ある日、自分たちを助けてくれた小隊長さんを思わず『おとーしゃん』と呼んでしまい恥ずかしい思いをした。

なお、姉のヨハンナとは血が繋がっていない。


・その後の小隊長

……いや、若い奥さんで羨ましいって、あいつ俺より150歳以上も年上なんだけど……

何気に異世界婚第2号。


・その後の女性自衛官さん

……私も小隊長狙ってたのに……!


・その後の聖女ちゃん

火炙りになりました。最後の言葉は『私、何も悪い事してないのに!!』


・その後の宗教関係者

断頭台に消えました。え?火炙りじゃないのかって?中世ヨーロッパって、男性より女性の方が立場が低くて、処刑方法も女性の方が長く苦しむような残酷な方法でコロコロされてたんですよ?火炙りとか水責めとか。


・その後の代表

さすがに今回のブチギレ案件は政府内でも問題になったが、誰も異世界国家との交渉etcをしたがらないため、更迭されずにすんだ。

ネクタイを解いたのは、『あなた方は丁寧な対応をするに値しない』ということの意思表示のため。これは代表の癖みたいなもの。

因みに5年前、20歳以上年下の美人でナイスバデーな現地女性から押しかけ女房され、最終的に結婚した。何気に異世界婚第1号。



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― 新着の感想 ―
第二弾も楽しく読ませていただきました! 実際、ルネッサンス前の暗黒時代のヨーロッパの宗教はこんな感じなんでしょうね。 イカれた宗教に対する辛辣さは異世界でも相変わらずな日本でしたw あと、騎士団長は前…
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