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12.こんな展開は知りませんよ?

 どれだけ泣き喚いた次の日でも朝が来る。

 それは何度人生を繰り返しても変わることのない法則だった。


「泣き過ぎて目も頭も痛いわ」


 ため息をついて鏡を覗く。

 そこには見るからに性格が悪く気の強そうな極悪令嬢が映っていた。

 こんな状態でシリル様がいる学園になんて行きたくない。

 だけど。


「……行かなくちゃ」


『俺を無視するなんて、どういう了見だ。リズ』


 クリスティーナの登校初日、ゲームとは違い何故かシリル様は私の所に来てしまった。

 シリル様との婚約が解消されても、これではクリスティーナとの仲が進展しない。


「はぁ、初めのイベントさえ発生させればあとは勝手に進むと思ったのになぁ」


 まずはクリスティーナがシリル様の正体に気づいている、とシリル様に気付かせないと。

 なんだかややこしい事になっているけれど、やってやるわ! と気合を入れていたのだが……。

 それからわずか数十分後。


「酷い顔だなリズ」


 蒼の瞳で真っ直ぐ私を捉えたまま、シリル様からそんな言葉が落ちてくる。


「…………せめて顔色って言ってください」


 確かに酷い顔だけど、と抗議しつつ私は両手で顔を覆う。

 何故、私は超絶楽しそうな顔で私を虐めてくるシリル様に捕まっているのだろうかと、なんでこうなった案件に頭を抱えていた。


**


 シリル様にお別れを宣言した日は全然眠れなくて頭がまわらず、あまりに心がズタズタで。

 父とシャーリー様の相手をするのもなんだか億劫で。

 クリスティーナはヒロインなのだし、一人で放置しても問題ないだろうと判断した私は早々に学園へと出向いた。


「……? なんだか騒がしいわね」


 臨時講師に扮したシリル様は昨日お披露目済みだし、それ以上にざわつく出来事なんてあるかしら? と不思議に思っていると。


「えっ?」


 何故か急に人混みが真っ二つに割れた。

 いくら私が高貴な身分だとはいえ、何もやらかしてない時にこんな現象は起きないはずだけど……。と、逃げそびれた私の目に映ったのは、キラキラ輝く一番星みたいに眩しい存在。

 柔らかく少し猫っ毛な金糸の髪に蒼の瞳。整った顔は歴代王族の中でも群を抜いていて、一流の画家にも彼の魅力は描ききれない。

 そんな、私の最愛の推しであるシリル様その人だった。


「な……んで!?」


 なんで講師姿に変装したシリル様ではなくて、まんま王太子が護衛も付けずに学園にいるの!?

 こんな展開は知らないし、本家でシリル様が正体を明かすのはラストの断罪シーンの時のはずなのに????

 と、私の頭の中は疑問符でいっぱい。なのだけど、それよりも何よりも。


「早かったな、リズ」


 割らせた道のど真ん中を堂々と歩き私のそばまでやってきたシリル様。

 その姿を真正面から捉えた瞬間、私は理性を失った。


「はうぅっ、今日もシリル様が眩しいっ。その衣装は先月仕立てられたアニータの新作ですね! 今回もシリル様の高貴さを引き立てる良過ぎるデザイン。特に差し色に使われた濃紺と金糸の刺繍は素晴らしいですわ。でもでも、やっぱりどんな衣装でも着こなしてしまうシリル様が最強で最高です。昨日のネクタイ姿も素敵過ぎて"ネクタイを緩める動作を色っぽくやって頂けないかしら!?" なんて詰め寄りそうになったのを必死で抑えておりましたけど、今日は今日で周りを全て霞ませるほどの破壊力っ! もう! もう!! シリル様の存在は美の暴力と言っても過言ではありませんわ。美しくてカッコいいが過ぎて、わたくし色々やらかしそうです」


 ぐっと拳を握りしめ、生きてて良かったと幸せを噛み締めシリル様を拝む私。

 そんな私の早口長台詞に周りはざわつきドン引きである。

 そんな空気を綺麗に無視して、


「リズ、お前は相変わらず俺のこと大好きだな」


 寝癖ついてる、と長い指先で私の赤毛を整えてくれるシリル様。

 婚約してから10年、ずっとこんな調子なので私の奇行に慣れっこなシリル様は今更こんなことでは動じない。


「ええ、もち……いえっ! そんな事ないですっ!!」


 あっぶなっ!! と私はすんでのところで立ち止まる。

 全力で勿論、大好きですわ!! と愛を叫びシリル様に抱きつくところだった。

 習慣とはなんと恐ろしいモノだろうか。

 せっかく涙をのめてないどころかダダ流しだったけど、何とか婚約解消の申し入れをシリル様にしたというのに。

 コレをやってしまったら昨日の私の努力が無駄になる。

 ダラダラと背中にイヤな汗が吹き出す私。


「ッチ、引っ掛からなかったか」


 私にだけ聞こえるようにシリル様がつぶやき、


「リズは単純だから一発で落ちると思ったんだがな」


 珍しく読みが外れたと意地悪げで色っぽい声を私の耳が拾う。


「……はっ!? わざと? わざとですの!?」

 

 ばっと耳を押さえ、私はすぐさまシリル様から距離を取る。

 そうしないと、表情筋が緩んで耳まで真っ赤に染まりそうだったから。


「それに婚約者相手に舌打ちしないでくださいませっ!!」


 私はビシッとシリル様を指差し、キッと睨む。

 王太子相手に不敬だ、さすが礼儀知らずの狂犬なんて声が聞こえてくるが全部無視!

 本音を言えばシリル様なら舌打ちされようが悪態をつかれようが私にとってはご褒美でしかない。

 のだが、10年間シリル様の婚約者だった私の勘が告げている。

 私、今絶対絶命のピンチかも、と。


「リズ、話がある」


「わたくしにはありませんが」


 警戒心を滲ませて、素っ気なく聞こえるようにツンとした態度を取る私。

 今までシリル様にそんな反抗的な態度を取った事はないので、推しになんてことをと内心で泣きながら土下座で謝る。


「そうか、まぁリズに拒否権はないが」


 そんな私の心情を知ってか知らずか楽しげに微笑を浮かべるシリル様は、


「大事な話をしよう。君と俺の将来に関わる話だ」


 青色の封筒を見せる。

 王家の紋章が押されているその封筒には見覚えがあった。

 それには私が8つの時に王家に誓った誓約魔法が封じられている。


「……お早いですね、さすがです」


 昨日の今日でまさかもう整えてくるとは思わなかった。さすがシリル様だ。

 婚約を解消するには、その誓約魔法を解く必要がある。確かに私に拒否権はないな、と苦笑する私に、


「一限目開始までには終わらせたい。そろそろ行くぞ、リズ」


 当然のように差し出される手。

 私は大好きなその手をじっと見る。

 シリル様にエスコートされるのも、わがままを聞いてもらえるのもコレが最後。

 そう思ったらまた泣きそうになったけれど。


「承知しました」


 最後くらい、令嬢らしく笑ってみせよう。

 シリル様の婚約者で幸せでした、と。

 言葉にできなくても、シリル様に伝わるように。

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