またもや、無限に続く系ってマジですか!?
⚠︎虫の描写が苦手な人は気おつけてください…!
コンコン
日が沈んだ頃、扉をノックする音が静かな部屋に響く。
「んがっ!……あ、そっか。寝ちゃってたんだアタシ。」
ぐしゃぐしゃになった髪のままベッドから起き上がり、窓の外を見るとすっかり日が暮れていた。
コンコン
またノックの音が響いた。一瞬誰かと躊躇したが
「あ、そっか。夜食を届けに来てくれたんだ!」
夜食を届けてくれる人と気づき、急いで扉を開けると
「あっれぇ、誰もいない?」
だが、確かに、しっかりと、2度響いたノックの音が記憶の中に残っているのに。
「えっ、なに?…怖いんだけど?」
本当に人が居ないかと、開けた扉から頭を突き出し、左右に頭を振りしっかりと確認する。
「えぇ?本当に居ないじゃんか。」
ビビりまくっていると右から車輪が動くような、軋んだ音と足音が近づいてきた。
「へっ!?」
音がする方を振り向くと、メイドさんがサービスワゴンに、大量のオベントウを乗せて、こちらへ向かってきていた。
「な、なんだぁ……人か。」
メイドさんは綺麗な緑色の髪を揺らしながら、ぺこりと両手でスカートの裾を持ち、丁寧で品を感じるお辞儀してくれた。
「こんばんは、オベントウをお届けに参りました。」
メイドさんはそう挨拶を済ませると、サービスワゴンにいくつも積まれたお弁当のひとつを取り出し、アタシに差し出した。
「今回、料理長の気持ちのこもったオベントウですから…存分に味わっていただけると心身共に私達が喜びますわ」
優しそうな笑みを浮かべて、また、綺麗なお辞儀をしてみせた。
「はいっ!もちろんです。残さずきっちり食べますよ!」
その答えを聞いて、嬉しそうにメイドさんは丁寧に頷いた。
「あ!それに、先程?食べた唐揚げ…じゃなくて!揚げ物?もとても美味しかったです!ぜひ料理長に伝えてください!また、食べたいなぁ。」
目を瞑り、幸せそうに自分の頬に手を添えた。
「あとあと〜、あの揚げ物……食べた瞬間にぃ、サクッ!、ジュワ〜ってぇほんとに美味しくて…!」
あまりにも喋りすぎた。アタシの悪い癖だ…そう思い目線を下にしたまま、顔を上げる
「あっ、すいません。話しすぎちゃいましたよね?」
メイドさんの方へ、目線を上げて向けると
「あ…れ、?メイドさん……?」
そこには誰も居なかった_____
メイドさんは、サービスワゴンごと消えていたのだ。
そう、さっきまでいたのに。確かに、しっかりと、この目で見たはず。
鳥肌が立つ、さっき部屋にいた時と同じだ。そこに居たはずなのに____
「メ、メイドさん……?」
何かの間違いであって欲しいと、声を出し静かな廊下で問いかける。
「っ____」
もちろん、その問いかけに答えてはくれない。
震える声で自分を納得させるかのように、独り言をつぶやく。
「ぁ、あ〜…きっと、次の人にオベントウを渡しにいったんだよね。そうに違いないよ…あはは~。」
アタシしか居ないこの空間で、廊下で、自分自身の乾いた笑いが響く。
アタシの話が長すぎて、待ちきれずに他の人に届けに行ったんだ。そうじゃないと_____
いや、そんな考えはよそう。ここは魔法が使える世界だ。瞬間移動など、きっとザラにある。そうに決まってる!
そうやって、自分の心で無理やり納得する。
妙に、気持ち悪い変な感覚も、静かで古臭く誇り臭い廊下のせいにしてしまおう。
「オベントウも、受け取ったし。部屋に…戻ろっと。」
アタシは小さく呟くと、オベントウを手に持ったまま蹄を返し、再び廊下を歩き出す。
______どのくらい経ったろうか。
最初は、何となく…ほんとに少しだけ、違和感を感じただけだった。こんなにアタシは歩いてたか?って、引き返すのにこんな時間かかるか?って……
でも、それは、確信へとどんどん変わってった。
もう怪奇現象と呼んでも良いんじゃないか…?
そう心の中で呟き、自分に問いかける。
心のどこかで信じたくない心がありつつも、もう認めざる負えなかった。
この廊下は、おかしいって事に。
______ずっと変わらない景色が嫌になる。
廊下の床が軋む音もずっと、一定で何一つ変わらない空間に嫌気が差して立ち止まった。
もう足も、疲れた。心も摩耗している。
その場にオベントウ持ったまま、しゃがみこみ、俯く。
「もう…やだよ〜。異世界なんか来るんじゃなかった…お家に帰りたい___」
弱音を吐く。何も変わらない空間ってだけでこんなに心に来るだなんて知らなかった…知りたくなかった。
ふと、顔を上げて周りを見渡す。すると、左には均等にある部屋の扉が見えた。
盲点だ。そう、アタシは、あまりの状況に…視野が狭まっていたのだ。
私はいそいそと立ち上がり、扉に近づいた。
もしかしたら、この部屋に誰かいるかもしれない。打開策があるかもしれない…そう目に希望を宿して、ドアノブを見つめた。
ゆっくりと手を伸ばして、ドアノブを握る。ドアノブの冷たさが、少し暑くなった手には心地よかった。
そして、ドアノブを回し、扉を開けようとした。
____が、1ミクロンも開かなかった。
当たり前のことだ。誰かが居ても居なくても…鍵がかかっている可能性が高いのだから。
「っ……すいませーん!!誰かいませんかー?」
震えふ声を抑え、必死に呼びかける。いくら叫んでも誰も答えてはくれない。
あまりに恐ろしくて後退りをする。
「あ、アタシ……ここに、ずっと独り?」
自分で声に出して、恐ろしくなった。
孤独感、恐怖、未知、寒気、全てが嫌だった。
__その瞬間、アタシの心情以外の変化が起こった。
持っていたオベントウ箱から、ガサゴソと謎の音が聞こえてきた。何かが蠢くような振動が手に伝わる……
嫌な予感を感じながらも、オベントウの蓋に手を伸ばす。だって、これ以上、また、この廊下を歩き続けるなんて無理。
ゆっくりと、オベントウの蓋を外した。
そこで見たものは_______
ぐちゃぐちゃとしたおぞましい何かだった。
あまりの気持ち悪さに、思わず手が離れる。
アタシの手から転げ落ちたオベントウは、カラン、コロン、と音を立ててひっくり返った。
ゆっくりと後退りをしながら、オベントウの中身を凝視する。
ソレ は、虫の死骸を、また生きた虫が食いちぎっている地獄絵図だった。
虫が数匹所ではない、蟻、カメムシ、ゴキブリ、蜘蛛、蛾、カマキリ、ムカデが互いに争いあっているのだ。
「気持ち悪い」
胃には何も入って居ないはずなのに、どんどんと上がってきてしまった。そのせいか、胃酸の味がダイレクトに分かってしまう。
「嫌っ、来ないで……!!」
気持ちの悪い虫たちが、コチラへ向かってくる。
「お願い、嫌だ!……許して…ごめんなさい」
何に謝っているのかさえ自分には何も分からなかった。混乱して真っ白な頭に必死に働きかけるが、何もできやしなかった。
「ひっ……いや、やめて…お願いしますっ!!」
ゆっくりと、足からどんどんと、虫が生えずり上がってくる。
逃げたい、気持ち悪い。逃げ出したい。逃げれない。力が、入らない?……そう、アタシはあまりの恐怖で腰が抜けてしまっていたのだ。
「やだ!嫌だよっ……お母さんっお父さん…助けて、助けてよぉっ!」
涙をボロボロと流しながら、鼻水を垂らして懇願した。が、虫に言語など通じるはずもなく…虚しくもどんどんと這い上がっている。
必死に手で叩き落とすが、キリがないほどに上がってきてしまっていた。
もはや、自分の下半身が虫で覆いかぶされてしまっていた。
「気持ち悪い、気持ち悪、気持ち悪い、気持ち悪い」
気づけば、もう___身動きひとつ取れなくなっていた。
「たす、けて____」
視界が虫で覆いかぶされる最後の瞬間、アタシは最後まで助けを求めた。
そこからの記憶は無い
_____ほんとに辛くて気持ち悪かった。
コンコン
日が沈んだ頃、扉をノックする音が静かな部屋に響く。
「んがっ!……あ、そっか。寝ちゃってたんだアタシ。」
ぐしゃぐしゃになった髪のままベッドから起き上がり、窓の外を見るとすっかり日が暮れていた。
コンコン
またノックの音が響いた。一瞬誰かと躊躇したが
「あ、そっか。夜食を届けに来てくれたんだ!」
夜食を届けてくれる人と気づき、急いで扉を開けると
先程も会った、神官さんと目が合った。
「あっ!こんばんは~、オベントウですか!?」
目を輝かせながら、神官さんを見つめていると、クスリと神官さんがアタシを見て笑った。
「ふふ、まぁ…はい。予想通りですよ。オベントウです。」
オベントウを差し出され、アタシはワクワクしながら受け取った。……のだが、どうしてだろうか。
気持ち悪い_____
そう感じてしまった。
固まったアタシを見て神官さんが心配してくれる。
「___あの、大丈夫ですか?顔色が少々…いえ、だいぶ悪いですが。」
「あっ、えっと、その…いえ、大丈夫です。」
必死に作り笑いを見せる。
「少し、いやな夢見ちゃいまして……あれ、」
夢?夢なんか見たっけ____?
神官さんが、こちらを不思議そうに見つめている。
___他の人にもオベントウを届けるんだ。無駄な手間をかけさせちゃいけない……
「あっ、えーと。とにかく大丈夫です!!」
「そう、ですか?それならいいんですが……具合が悪い場合はすぐにでも呼んでくださいね。」
神官さんは、どこか納得いかない顔をしたままアタシの部屋を後にした。
「はぁ_____」
どうしたんだろ、アタシ。ただ気持ちよく寝ていただけなのに。
だって、アタシは、アタシ……は…?
頭にノイズが走る____
「うえっ……気持ち、悪い。」
ぐぅ______
腹の虫が元気よく鳴る。
「もしかして、お腹空きすぎて気持ち悪いだけ……?」
気の抜けた気持ちになったアタシは、これ以上考えることを辞めた。
「あ〜うん、お腹空いたし、オベントウ食べよっと。」
オベントウを机の上に置いて、ゆっくりと椅子に座り、オベントウの蓋を開けた。
「____わお」
身が水色の焼き魚や、紫色の卵焼き、独特な形した野菜、白米は____良かった普通だ。
「まぁ……どの料理も、予想でしかないけどね。」
「でも、きっと、これも美味しいんだろうなぁ。」
目をぎゅっとつぶり、オベントウに着いていたフォークを使い、口の中に卵焼きを入れる。
「___!!」
美味しい…!!これは、止まらないよ!甘いタイプの卵焼きだ。好きなんだよね、甘い卵焼き~
「うまぁ……」
___気づけばあっという間に食べ終わっていた。
部屋に置かれてあるティッシュを使い、口を拭った。
ただ、何となくカーテンの隙間から見える外を見つめた。
窓の向こうには、蜘蛛の巣に引っかかってしまった蛾が、見えた。
もがく蛾に。ゆっくり、ゆっくりと蜘蛛が近づく。
そして、そのまま蜘蛛に食べられてしまった。
「ありゃま、可哀想に。運が悪かったんだね。」
アタシはソレを見て、謎の違和感を感じた。
「__あー、気のせいだよね!」
そう言って、窓の外から目線を外したアタシは、椅子から立ち上がり、
「うん、暇だ。暇だな〜。透子ちゃんの部屋にでも遊び行っちゃおうかなぁ!」
窓に背を向け、そのまま部屋から出ていった。
____アタシは、何も気づかなかった。窓の外から小さな黒い影がアタシを見つめていたことに。




