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不可解なカード 【桜木視点】

サブタイトル変えました。


ふらふらしてすいません。

 Cブロック。1日目。23時30分。 


 馬鹿なっ!


 俺は叫んだ。

 心の中で。

 もしかして、到達してしまったのか?

 この密室の脱出方法に。

 

 俺は戦々恐々した。

 それはみんなも同じらしく、辺りは騒然となった。


「……本当か? 岸本?」

 いつもは冷静沈着の杉下が、珍しく取り乱したように言った。

 体を大きく前のめりにし、瞳孔を見開く。

 さながら半狂乱になった麻薬中毒者のようである。

 みんなが餌に群がる鳩のように岸本の周りに集まる。岸本を中心に円が作られる。天井から見下ろせば、波紋を描いているように見えるだろう。

 ある者は真摯な目つきで岸本を見つめ、ある者は嘘だろう、と、半笑いしながらも耳はしっかりと岸本の方に傾けていた。

 対する俺は近くにあるリクライニングシートに腰かけるように座り、周りと一歩距離を置く。

 岸本を見極めるつもりで、静かに腕を組む。

 あたりに妙な雰囲気が流れる。

 沈黙とは違うテスト用紙を貰うときの、不安と期待の入り混じったよう気配。

 頭の中ではダメだと理解しながらも、縋らずにはいられないという感覚。

 無意味だと自分を嘲笑ってなお、仄かな希望の灯は消えない。

 そんな感じだ。


 さて、岸本の策とは何か?


 過度に期待するみんなの視線を、ダーツの的のように一心に受ける岸本。

 岸本は手を顔の正面でぶんぶんと振り、

「初めに言っておくけど、ここから脱出できるとかそんなんじゃないから」

 と言った。

 かすかな失望。

 しかしそんな無言の批判に、岸本はさほど気にしたような様子はなかった。

「けどね、分かったことがあるの。妙じゃないこの現状? こんな、大それた施設の中に私たちを監禁する意味は何だと思う? それは分からないよ。―――――ただ、言えることがあるとすれば……」

 と岸本はいったん口を噤む。

 岸本の整った唇は再び開く。

「閉じ込められているのは、私たちだけじゃないってこと」

「……どういう意味?」

 佐久間が首を傾げる。

「簡単な話よ。私たちもともと修学旅行で東京まで行ったんだよね」

「そうだけど……」

「じゃぁ、ここでクエスチョン」

 岸本は一呼吸置いて、

「2-3組以外のクラスはどこに行ったのだろう? という疑問点が浮上してくるよね?」

 と言った。

 ああ、とみんなの口から感嘆の声が聞こえる。

「分かったぞ、つまり岸本はこう言いたいんだな」

 そんな中杉下が口を開く。

「この核シェルターみたいなこの空間には、俺たち以外の、たとえば、一組とか二組がいて、そいつらとうまくコンタクトが取れれば、十中八九ここから脱出できる可能性は大幅に上がる」

「ご明答。相変わらず頭の回転が速いね」

 見事正解を回答できた生徒を褒めるように、岸本は言った。

「そしてこの仮説を証明するために、私たちがとりゆる行動は一つ――――――」

 みんなの息をのむ声が聞こえる。

 待ってるのだ。岸本なりの解答を。

「この部屋の壁がノックする要領で叩く」

 呆気に取られたような表情を浮かべる。

「えっ? なんで?」

 だった。

 狐につままされたような感じ。

 

 なるほど。


 そんな中、俺は納得した。

 確かにこの方法なら少なくとも、ここではない別の空間があるかないかを知ることができる。

 もしかしたら、このRPGのような非現実的な環境に困惑して、みんなの思考が鈍ったのかもしれない。


「みんな、考えても見てくれ。もし仮にこのCブロックの横に別の空間があった場合、こことその空間を隔てる壁に向かって蹴りを入れたらどうなると思う?」

「……音がするよな。普通……あっ!」

 どうやら杉下は気付いたらしい。そこにはミステリ小説の謎を解いた読者のような笑み。

 同様にみんなも杉下と同じような笑みを浮かべる。

「みんな分かった? ここにいる全員で壁という壁にノックをして音が聞こえた場合、ここと隣接する部屋があるってことになるわけ」

 得意げに岸本は言った。

 そのあとの動きは簡潔明瞭だった。

 杉下と佐久間の指示のもと、みんなは手が痛くなるくらいに壁にノックをし続けた。

 その結果、空のペットボトルを落とすような、乾いた音がCブロックの外から聞こえ、岸本の理論が正しい事が証明された。


 つまり、俺たち以外のクラスがこの中にいるということだ。

 これは大きな進歩と言える。


 

 そして、時は満ちた。


 Cブロック。2日目。0時

 

「さて、Fカードを支給する時間が来ました」

 全身を、赤と黒のマーカーで彩られた道化師は、妙に人間味のある声で言った。

 とっさに、時計を見る。

 零時。

 どうやらFカードとかいうものが配られるらしい。

 まるで砂塵のようなピットを纏い、にやにやとした笑みを浮かべるレグルス。

 それは何か不穏な気配を感じさせた。

 得体のしれない化け物を相手にするような感覚。

 底知れない悪夢とでもいえばいいのだろうか。

 レグルスは電脳世界の住人でありながら、三次元のような立体的な動きで言う。

「まず、Fカードの説明を改めてしましょう。一応補足もありますからね」

「……リクライニングシートのこと?」

「その通りです。佐久間さん。それではところどころ図で解説しながらの進行となります」

 ふっと本のページをめくるように、画面が反転した。

 ディスプレイには、この部屋にある食料自販機が投影されていた。

「まず、Fカードの基本用途は食料の購入だけではありません。例えば、トイレの横にあるシャワー室を使用することもできます。また、生活用品や薬、下着なども購入できます」

 ディスプレイ内のレグルスの手には長方形のカードが握られていた。あれが、Fカードなのだろうか。黒スプレーで塗りつぶしたような色をしていた。Fカードの端にはマイクロチップのようなものがあった。

 それをレグルスは食料自販機に入れた。食料自販機の大きい画面に、商品の項目がずらりと陳列してあった。そこから、レグルスは水を選んだ。待つこと数秒。自販機の下の所から五百mlのペットボトルが転がってきた。

「そして、先ほど佐久間さんから質問があった通り、このFカードを使えば、リクライニングシートの特殊ギミックを使うことができます。その特殊ギミックとは、ずばりゲームヤ映画などの鑑賞です。まるで、その場に自分がいるかのような錯覚すら起こさせるほどです。ゲームはインターネットのオンラインゲームを想像してくれれば、理解が早いでしょう。また、それらを行うための発動条件は、リクライニングシートにご自分のFカードを挿入することです。もちろん、()()()()

 レグルスは、さっき買ったミネラルウォーターを見せつけるようにして飲んだ。

 そういえば、ここに来てから、何も口にしていないことを思い出す。

 急激に焼けるような喉の痛みが生じた。

 欲しているのだ。

 水を。

「……無料? なら、食料とか水には金がかかるのか?」

「もちろんですよ、杉下さん。しかし、ご安心ください。そのためにFカードが存在するのです」

 レグルスは笑った。

 背筋が凍るような冷たい笑みだった。

「まあ、実際に使用してみた方がいいでしょう。では、NО.89番、有馬蛍(ありまほたる)さん。画面の前にいらっしゃってください」

 有馬は解せないという表情を浮かべながらも、ディスプレイの前に立った。

 すると、ディスプレイの下にあるカード口から、一枚のカードが出てきた。

「受け取ってください」

 有馬は恐る恐るといった具合にFカードを手に取った。

 後姿だけでもわかるが、有馬は緊張しているらしい。当然だ。

「次に、NО.117番、飯島光(いいじまひかる)さん。前にいらっしゃってください」

 杉下を慕う、サッカー部副キャプテンの飯島は、目で杉下とアイコンタクトを取った後、意を決して前に出て、例のカードを受け取った。

「NО.55番、伊藤薫(いとうかおる)さん。前にいらっしゃってください」

 卒業式で卒業生が証書をもらっていくような、流れ作業。

 誰も喋らない。

 重苦しい静寂。

 

 ―――――どうやら、貰う順番は名簿順らしい。しかし、NО.とかいう数字の括りは名簿通りというわけではなかった。

 乱数。

 サイコロを振る時のあれと同じだった。

 

 名簿番号とNО.の意味不明な不一致。呼ぶ順番にはきっちりと順序があり、調和がとれているが、NО.にはそれがなく、混沌としている。

 それが何を意味するのかは今は分からない。


「NО.47番、桜木鼓太郎(さくらぎこたろう)さん。前にいらっしゃってください」

 どうやら、俺は47番らしい。俺は静かに立ち上がり、Fカードを受け取りに行った。

 途中、名簿が俺より一個手前の佐久間が控えめな笑顔を見せた。その手には、不気味に綺羅光りするFカード。

 俺は5度くらいの角度で頷き、レグルスの前に。

「これを」

 俺はカード口から出されたFカードを受け取った。

 眺める。

 そこには、何も書かれておらず、墨で塗りつぶしたみたいな真っ黒な大地に、ICみたいな薄い機械が取り付けられていた。真ん中には、デジタル時計のようなものがあり、10000という数字が表示されていた。

 

 十分後。

 三十二人分のFカードが全員の手に渡った。

「やっと配り終えました。これで次のステップに進めます。皆さんの手元には、それぞれ一枚ずつFカードがあると思います。それを自販機に通せばある程度のものは購入できます。そこには10000の数字が表記されていますよね。それは今現在のあなたの所持金額を表すものです。計画的にご利用なさってくださいね」

 レグルスがおどけた様な表情をするが、場の雰囲気は一向に和まなかった。むしろ、悪化した気がする。

「十二時間ごとに一万円がFカードに送金されます。つまり、一日で二万円ものお金が支給されるわけです。大体、飲み込んでいただけましたか? では、そろそろ時間ですので、私はこれで」

 レグルスは消え、ディスプレイには青白い画面だけとなった。

 あまり、この国のルールに飲み込めていないことに対する、困惑と恐怖が、辺りに伝染病のように伝染した。

 皆沈黙した。


 みんな自分のFカードを眺めていた。デジタル表示の部分に触れてみたり、違う角度から見てみたりしていた。

 たっぷり、二分はそうしていたと思う。

「やっと、第二ピリオドって感じだね」

 岸本が俺に近付きながら言った。

「ああ、やっと進展したって思うよ」

 直に地べたに座る俺の隣に、岸本が長い髪を垂らしながら腰を下した。

 肩が少し触れ合うくらいの距離。

「すごかったな、岸本。さっきの推理は」

「別にすごくないよ。脱出方法を見つけたわけじゃないし」

「いや、俺は岸本の観察眼がすごいと思う。よく思いついたなって感じ」

「ありがとう。そういってくれると嬉しい」

 こてん。

 岸本が俺にもたれかかる様に体を傾けた。

 体の右半分が気恥ずかしさで炎上しそうだった。

 俺はそっぽを向いて、

「そっか。俺もうれしいよ」

 と、言った。


 岸本の言うように、こうして、第二ピリオドが幕をあげた。

 

 もし室内に取り付けてある時計の時間が本物であるなら、今の時間帯は本来、就寝する時間だ。初めはFカード等の好奇心に押されると思うが、いずれ睡魔に負けて寝てしまうはず。


 その時を狙ってファンを探す。


 必ずどこかにあるはずだ。

 攻略法のないゲームなんて存在しない。

 俺が持ちゆる知能と、技術と、能力でこの理不尽なゲームを攻略して見せようじゃないか。


  

 

 


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