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脱出方法 【桜木視点】

 Cブロック。1日目。23時20分

 

 俺は確信していた。


 間違いなくここから脱出することができると。


 その考えが思いついた瞬間、腹の奥底から漏れる笑い声を上げないようにするのに苦労した。

 

 その脱出方法とは、ずばり、ファンを探すことだ。

 不可解だとは思わないか?

 こんな大勢の人間が、生存活動を営むはずのこの密室に、空気を入れ換えるための装置がないはずがない。

 仮にそのような装置がなければ、俺達2-3組は酸素不足で、間違いなく窒息死する。


 ファン。

 これは換気扇の役割を果たすものだ。必然的に外界と繋がってなければならない。


 これで分かっただろう?


 この窓一つない密室には、絶対的に、換気扇の役割を果たすものが必要である。

 そして、この密室の空気を入れ替えるために、こことは別の空間が必要になってくる。

 もし、そこに外界とつながる道があるとすれば……。


 俺はこの牢獄のような所から脱出することができる。


 もっともさっきここに連れてこられたので、ファンの場所までは把握してないが。


「みんな、聞いてくれ!」

 クラス委員の杉下が声を上げた。

 男子女子関係なく、2-3組全員が、杉下の方へ眼を向けた。

 レグルスとかいう、妙な人工知能がディスプレイを去って、二十分が経過した。

 みんなレグルスの説明を聞いた後、自分たちがいるこのCブロックを探索してみようという話になった。

 初め何人かは反対したが、杉下の働きかけや、その他杉下を慕う大勢のやつらによって、そうなった。

 多数決の原理。

 杉下が掲げるこの空間の基本原則らしい。

 数の暴力とは恐れ入る。

 俺は集団の意思を尊重し、個人の意見を無視する杉下のファシズム的な思考に不快感を感じた。

 本人にそんな意識はないと思うが。

「一回、俺たちのこの状況を確認しよう」

 杉下はディスプレイの目の前に立って言った。

 それに同調するように佐久間が言った。

「レグルスの言うCブロックに、私たち三十二人が閉じ込められていて、食料は今のところない。一応、扉らしきものはディスプレイの近くにあるけど、開かなかったわ。そして、後四十分したらFカードが三十二人分配られる。それを使って、後ろ側の食料販売機に通せば、食料を得ることができる。そして、一番の謎である私達が誘拐された原因は分からない」

 艶やかな黒髪をゆらして、佐久間が言った。

 確認を取るようにあたりを見渡した。

 全員異存はないらしく、こくんと頷いた。

 みんな、一言も漏らさないように無言で聞いていた。

 体操座りをして杉下と佐久間の指示を待つ。 

 わずか二十分程度で、この空間の指導者となった杉下と佐久間。

 たいした統率力とリーダーシップだ。

 杉下は、

「一通り、探してみたが、ここから脱出するルートはなかった。あの大きい扉も、さっき試してみたが開く気配はなかった」

 と言って、自分の背後の方に指をさした。

 そこには獅子が口を開けたかのように、大きい扉があった。

 杉下が言ったように、体育会系の男子数名が挑戦していたが、一向に開く気配はなかった。

 鍵穴こそあれどその鍵がないのだから、扉が開かないのは当然かもしれない。

「この椅子みたいなやつは何だ?」

 男子生徒の一人が言った。

 かすかに場がざわめいて、いろいろな憶測が飛び交う。

 だんだんと大きくなる喧騒を、杉下は片手で制した。

 一気に静かになる。

「俺にも分からない。ただ、現時点で言えることは、それぞれのリクライニングシートにはカードを差し込むような所があるということだ」

 たしかに、三十二個あるリクライニングシートの手を置くところに、カードの挿入口があった。

「おそらく、そこにFカードとかいうものを差し込むと思う」

 それは、俺も同意見だった。カードと言って思いつくのがそれしかなかったからだ。

 しかし他のみんなはそのことに気付いていなかったらしく、いろんな方向から、杉下の洞察力を称賛する声が聞こえる。

「さすが、和馬君ね」

 佐久間が嬉しそうに言った。

 すると、杉下は照れたように淡麗な顔立ちを歪めた。

「知ってる? あの二人できてるらしいよ」

 悪戯っぽくそういったのは岸本睡蓮(きしもとすいれん)だった。

 いきなり、出てきた岸本に少なからず驚いて言った。

「なるほどね」

「こんな特異な状況で、よく笑えるよね」

 岸本は二人の方に顎をしゃくった。

 二人は幸せそうに笑っていた。

 そんな、二人を周りはかすかな嫉妬を交えながらも、微笑ましそうに見ていた。

「つまり二人の結論で言うと、私たちは後四十分間何もできないわけだ」

「岸本の言う通りだよ。結局時が満ちるまで現状維持。平行線を辿ることになる」

 岸本は背中に届きそうな長い髪を手で押さえながら、心配そうに言った。

「それよりも、大丈夫? さっき、すごく項垂れてたみたいだったけど?」

 俺は平静さを取り戻しつつあるな声で言った。勿論嘘だ。

「大丈夫だよ。この不可解な状況に困惑していただけだから」

 俺は弱弱しく微笑む……演技をした。

 俺の計画を悟られないようにしなければならない。

 その一心だった。

 案の定岸本は励ますように、

「何とかなるよ。私がついてるから……」

 と言って、俺の背中に手を回して優しく抱きしめた。

 それに答えるように、俺も軽く抱きしめ返した。

 ガラス細工のように華奢な体だった。

 百七十五cmの俺と目の位置はさほど変わらないはずなのに、岸本の体は普段より、小さく見えた。

 

 怖いんだな。


 そう、推測するのは容易だった。俺だって怖い。

 しかし、俺は耐えなければならない。

 なんてことない。みんなは見つけられなかったみたいだが、俺は見つけることができる。


 この密室から脱出する出口を。

 

 

 



 



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