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条件 【桜木視点】

 ゲーム会場。10日目。0時41分。


 アケルナルの言葉に、みんなの顔に緊張が浮かんだ。


「……それは、もうすぐゲームが始まるという解釈でいいのだな?」

 小田切が小さく息を整えて言った。

「いや、そういうわけじゃないぜ」

「それってどういう意味だよ。てっきり、人数がある程度揃ったからここが開いたんじゃないのか?」

「違うな。俺はただ時が満ちたから、ここゲーム会場を開封したに過ぎない」

 アケルナルは首を竦めてふぅと息を吐いた。

「それはどういう意味だよ」

「ここはある特定の時間に開口したってだけだ。まだ、足りないのさ。次のステップへと進めるための駒がな」

 アケルナルは分かったか? というような表情をして俺達を見た。青色のマーカーが施された瞳が怪光のように光った。

「何が足りない」

「悪いがそれを教えることはできない。だが安心しな。もし()()()()()であるお前らがある条件を満たした場合のみ、再び俺は姿を現す。では、健闘を祈るぜ」

 次の瞬間アケルナルは消えた。ぱっと青白いホログラムが空に舞う。


 ゲーム会場は性質の悪い静謐に包まれた。

 みんな思い思いの表情でアケルナルの消えた虚空を凝視。そのまま、唇を噛み締めた。

 

 まだゲームを始めることはできない。そして、そのための条件が満たされていない。

 そういうことなのだ。


 俺は歯ぎしりをした。ゲームが始まらないのならばここに用はない。壁にもたれるのをやめ、退出した。それをみんなは複雑そうに見つめた。ぽつぽつと後ろから足音。

 その途中通路の中、俺はしきりに頭を働かせようとした。


 俺は間違いなくゲームが始まると思っていた。にもかかわらずゲームが始まらなかった。


 何の前触れもなく開かれた扉。その先には巨大な空間。そこは十中八九ゲームを行うための部屋だ。アケルナルはそこをゲーム会場と言っていたのだから間違いはない。


 そして、ゲームに参加するためにはどうしてもファンの扉を潜らなければならない。つまり、プレイヤーというのは扉を潜った者をさすのだろうと推測できる。そして、急増する中央広場の到達者。


 それと表裏をなす様に、舞台は開けた。これがただの偶然とは思えない。不可解なまでに時期が一致している。

 

 通路を抜けた。前方への注意力が散漫になりながらも前に進む。俺が緩慢に歩いていたからか、すでに岸本や萩原たちが座っていた。同じように座る。

 得体のしれないような空気。俺はそれを振り払うように思考に没頭する――――。


 プレイヤーの数が足りないとでもいうのだろうか。

 俺は首を百八十度曲げ周りを見渡した。すでに六人全員が中央広場に集まっていた。

 そして、首を元の位置に戻し、右手を顎にそえた。

 いや、待てよ……。

 七角形という不可解極まりない形状をした机が、脳内にフラッシュバックのように駆け巡った。それぞれの側面には黒い椅子が備え付けられていて、計七個椅子がある。

 それに対して俺達プレイヤーの数は六人……。

 

 俺ははっとして、顔を上げた。

 

 もしかしたら、あの部屋の椅子はプレイヤーの数を表しているのではないか。

 そうだとしたら納得がいく。なぜプレイヤーが六人の段階でゲーム会場を開けたのかが謎だが。

 つまりアケルナルの言う条件とは、ずばりプレイヤーが七人揃うということなのだ。




 中央広場。10日目。0時47分。


「……そういえば、雫達って携帯買った?」

 思い出した様に岸本が言った。

 その一言で靄がかかったような空気はわずかに払拭された。

「いや、そういえば買ってないな」

「お金はある?」

 小田切は制服のポケットからFカードを出した。

「ああ。ちょうど三万円ある」 

「そっか。萩原君たちも言ってみようよ。何か発見があるかもしれないし」

 そう言って岸本は立ち上がった。同様に、萩原、小田切も立ち上がる。

 みんなの目には例外なく落胆の色が窺えた。しかし、小田切や萩原は気丈に振舞おうと表情を正す。

「そうだな。アケルナルがああいっている以上、何かしらの行動を起こした方がいい」

 そう、小田切が言って階段側に向けて足を進めた。道具屋は二階にある。きりりと凛とした表情。

「頼もしい限りだな」

 萩原も続く。

 その後、岸本は俺に一瞥したが俺が首を横に振ると、思いつめたように頷いた。そのまま、階段を上がった。

 一階の中央広場には俺と奥村、そして永瀬のみとなった。

「なんで、行かなかったんだ?」

 俺は疑問に思ったことを口にした。

 新たな打開策を講じる意味でも、携帯電話購入はプラスに出る。

 にもかかわらず、奥村と永瀬はそれをしなかった。

 俺は疑惑まではいかないが、ある種の不可思議を感じた。

 

 ああと言って、奥村は俺に視線を向けた。

「お金がないだけさ。だろ、永瀬さん」

 だった。

 どうやら、俺はお門違いなことを考えていたらしい。この数日でかなり疑り深い性格になったような気がする。

「それで、桜木君はいいのか。岸本さんみたいに付き添いに行かなくて」

 奥村はどこか探りを入れるような口調で言った。丸型の瞳が鋭い孤を画いた。

「俺はすでに携帯は持ってるから行く必要はない」

 それもあるが、本当は自分の推理を煮詰めたいからだった。なにか、見落としているような気がする。そういう、危機感のようなものが起因した。

 俺の至極もっともな返答に奥村はそうかとだけ言って、永瀬に目を向けた。その後、視線を下げた。

 

 ――――もしかして脱落したか。


 そんな言葉が脳裏によぎった。目の前の奥村は不安そうに瞳をきょろきょろと動かしていた。情緒不安定。疑心暗偽。そんな感じだった。

 奥村はゆらゆらとおぼつかない足取りで階段に向かった。後姿がどこか頼りなく見えた。

 それを永瀬は憐憫の籠った眼差しで見つめた。 

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