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動き出す運命 【小田切視点】

視点がまたも変わります。小田切雫。2―6組の人間です。

 Fブロック。9日目。0時44分


 ……なんだこれは。

 私は困惑した。

 目の前には残金が0と表示された扉。外へと通じるであろう出口。


「ククク、おめでとう。君にはゲームの参加資格が与えられた」


 ()()()。私の所属する2―6組を閉じ込めた謎の人工知能――――。

 周りは壁だった。病的なまでに整然で、気味が悪いくらい真っ白。

 三日前に見つけた扉の前。カペラは世界を見下したような表情を浮かべ、

 

「おやおや、浮かない顔をしているね。まさか、これで終わるなどと思ってはいないよな? ククク」


 哄笑。カペラの高笑いが静寂の中に響いた。

 どうなってる?

 私は再度そう思った。

 てっきりこの扉を抜ければ外に出られると思っていたのに。

 ゲームへの参加資格……?

 何だそれは。

 私はそのことをカペラに伝えると、こう返答した。

「なんだそのことか。安心したまえ―――確かにこの扉は自由へと続く扉ではない。だがこうとも言える」 

 と、カペラは一刹那の間を置き、

「この扉は()()()()()()()()()()()()()()()

 カペラはにやにやとペイントの入った頬を歪めた。

 

 ……自由を勝ち取るための扉。

 その言葉が頭の中で反芻。波紋を画くように広がった。ちょうど、小石を池に落とした時の様に。

 

 私はぽつりと言った。

「そのゲームとやらに勝ったら、外に出られるのか?」

 カペラは狡猾に染まった表情。そして、

「……まぁゲームの勝者になればの話だがね」

 と、言った。私に対する明らかな皮肉。私は冷やかな冷笑を浮かべた。

 カペラは私の表情に満足したのかもう一言言った。

「さぁ進むのか戻るのか―――決めたまえ。私個人としては進む方がいいと思うがね。もっともその先には恐るべき深淵が大口を開けて待っているが――――」

「進むに決まっている」

 間一髪入れずそう断言した。

「ほぅ君は目の前に地雷があると分かっていながら、それでも前に進むというのか」

 私は首肯した。

 

「そうか。なら進みたまえ。せいぜい、体を吹っ飛ばされないように気を付けるのだな」

 カペラは物騒なことを言い、朝霧の靄のように一瞬にして消えた。

 小部屋には私しかいない。


 私はやや躊躇しながらも、扉の奥へと進んだ。 




 私は二つの仮説を立てた。

 

 まず一つ目は2―6組のように、同等の密室に閉じ込められた人達がいるのではないかというもの。だとしたら同級生の可能性が高い。Fブロックには三十一名。2―6組全員がいた。なら一組から七組まであるクラス一つ一つに、Fブロックのような部屋が割り当ててあるかもしれない。

 

 次に二つ目の仮説。これが一番重要。できればあって欲しい。というのは私のように例の密室から脱出した人がいるのではないかという、複雑怪奇を極めた仮説だ。

 そして候補を上げるとするなら、私と同じ吹奏楽に所属している岸本睡蓮や、同じクラス委員の杉下和馬。小テスト廃止事件の張本人の桜木鼓太郎など、突出した頭脳を持つ生徒達がいる。彼らならやってくれるに違いない。


 事実私の立てた仮説は間違いではなかった。


 

 中央広場。9日目。0時49分。


「……(しずく)……」

 前方から聞き馴染んだ懐かしい声。

「……睡蓮……」

 私は嬉しさで飛び上がりそうになった。

 私は駆け足で睡蓮の元に駆け寄った。その勢いを殺さずにダイブ。睡蓮に抱きついた。私と睡蓮はなだれ込むように、床に倒れこむ。

 そのまま、睡蓮の背中に手を回す。彼女も私の頭に手を置く。母が子をあやす様だった。

 足で冷たい床の感触を覚えながらも、長い抱擁。涙腺がわずかに緩む。

 しばらく経っただろうか。どこからかやや弛緩したような声。

「もうそろそろいいかな」

 桜木鼓太郎だった。

 彼は私たちから数メートル離れた所に立っていた。おそらく、予期せぬ邂逅に喜ぶ私たちに気を使ったであろうことが窺えた。

 彼の思いやりを無下にするわけにもいかない。しかたなく私はそっと離れ謝った。

「……悪い、取り乱してしまって……」

「別に恥じることじゃないよ」

 桜木は私たちと距離を詰めながら言った。相変わらず、雰囲気が飄々としていて風のような人だと思う。

 

 私は頬につたる涙をハンカチで拭き、真ん中に設置してある円卓へと腰を下した。同様にして二人も向かい合うようにして座る。その後、互いのことについて情報交換した。

 私がまず驚いたのは。桜木の頭の切れだった。彼は初日からファンの扉について気付き、時間短縮のために睡蓮と共同戦線を張っていた。

 そうやってCブロックを脱出した二人は、毎晩ここに詰め寄って、二人と同じ境遇の人を探していた。そこに偶然私が脱出し、私と会いまみえたという訳。また二人がここに来たのは携帯電話もどきを買うためでもあったらしい。

「……なるほど。睡蓮達は二日前から、ここにたどり着いていたのだな」

「そういうことになるね」

 桜木君が合いずちを打つ。

 二人が言うにはここは中央広場という所らしい。何とも殺風景な所だ。

 睡蓮は言った。

「あとさっき話していた携帯電話を買おうかなと思うんだけど、ついて来てみる?」

「道具屋か」

「うん。手持ちは三万円以上あるし、買ってみようと思う。それに、Fカードみたいに何か重要な役割があるかも」

 それは私も同意見だった。そもそも携帯電話については奇妙な点が多い。

 確かに他者との連絡が取れる携帯電話は便利だが、私たちが行くことのできる場所は限られている。今のところここ中央広場とC・Fブロックの三か所しかない。そんな狭いエリア内で果たして携帯に存在意義があるのだろうか?

 あるいはそこにさほど意味はなく、全く別の使用方法があるかもしれないと考えるのは必然といえる。

「そうかもしれない。何しろこんな辺鄙な所に売ってあるのだからな」

「俺もそう思う。これもまた、主人(マスター)側が用意した物だろ。そんな代物に意味がないはずがない」 

 桜木が言った。その通りだと思う。

「とりあえず現物を拝んでみようよ」

 そう水連がまとめたので例の道具屋に行ってみることになった。



 道具屋。9日目。0時59分。


「いらっしゃいませ。おや、新しいお客様がお見えのようですね」

 通路の先には、妙に豪勢な小部屋。ガラスのシャンデリアに綺麗な色彩の壁。その中心にはスピカという人工知能。カペラとは違って尖った感じはない。

「小田切様ですね。先ほど、カペラから連絡がありました。ようこそ道具屋へ」

「カペラ?」

 水連が不思議そうな声を出した。

「カペラはFブロック担当の者ですよ、岸本様」

「ってことは、各ブロックに一体ずつ配置されているのか?」

「お察しの通りです」

 スピカは丁寧に言った。

 考えてみればそうだった。

 カペラはFブロック内で、生徒たちと意思疎通をしていた。またFブロック以外にも複数の部屋があるという私の仮説は、睡蓮達の介入によって既に証明されている。これは各ブロックにそれぞれ違う人工知能がいるという結論に直結する。


「それで私に何のご用でしょうか?」

「携帯電話を買いにきたの」

「そうですか。ではFカードを下のカード口に挿入してください」

 スピカにそう促されFカードを挿入。

 そして機械音。

 音源の方を見るとモスグリーンの床がせり上がっていた。その上には長方形の電子機器。

 私は不可思議なハイテク装置に驚いた。しかし水連と桜木はさほど驚いた素振りもなかった。

「お取りください」

 水連は一回周りを見渡して、携帯電話を手に取った。その後ゆっくりと床が下がっていく。同時にカード口から残金が減ったFカード。静かに掴む。

 

「桜木君の番だよ」

 桜木はコツコツと歩いて、睡蓮と同じように携帯電話を購入した。

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