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意志 【桜木視点】

 Cブロック。7日目。3時26分。


 スピカから一通りの説明を受けた後、特にやることもなくなったので、俺達はおとなしくCブロックへ戻った。

 誰かがトイレの中で用を足している途中に、ばったり出くわすかもしれないと危惧していたが、そんなことはなかった。時刻は午前三時三十分前。、みんな寝ているに決まっている。

 実際みんなリクライニングシートに腰掛けていた。

 ほっと安堵してCブロックへと帰還する。


「……なんか、すごかったね」

 岸本が興奮を隠せないといった表情を浮かべる。

 それは俺も同じだった。てっきりあの扉を通り抜けることができたら外へ脱出できると思っていたが、その先に待っていたのは、日の光ではなくさらなる関門――――まだ発動してはいないものののちに俺達を阻むであろう“変則神経衰弱”なる不可思議なゲーム。


 

『―――最後に質問していいか?』

『良いですよ』

『レグルスの言う‘変則神経衰弱”って何だ? ポーカーみたいなゲームか?』

 俺は今まで不明瞭だった疑問をスピカに投げかけた。

『私の立場上申し上げることはできませんが、ただ一つ言えることがあります――――』

 そこで、スピカは言葉を切り、

『このゲームの勝者には、自由を得ることができる……ということです。あちらにSPECIALと銘打った扉がありますね? あの奥には地上への入口とこの世界の解答があります。そしてその扉を開ける鍵こそ、“変則神経衰弱”の勝者にのみに与えられる‘特殊プログラム”というわけです』



 “特殊プログラム”。それはこの世界から脱出するための唯一の鍵。それを手に入れる手段が“変則神経衰弱”で勝利することらしい。確証や真実性はないが他にここから脱出する手段はない。


「……それで、いつ始まるんだろうね? 自由を勝ち取るゲームってのは」

「さぁな。皆目見当がつかない」

 俺はかぶりを振った。




 Cブロック。7日目。12時1分。


 もはや予定調和と化した食事時間。みんな生気のない目で足をひきずり食料自販機へと向かう。手には十万以上の貯蓄を持つFカード。それに対して俺は一万円ちょっとしかない。この差が自由を得るための投資とでもいうのだろうか。

 俺はスピカから聞いた話の重大さに驚愕し歓喜した。まだ脱出するための手段がある。そう思うと内心の高揚を隠せない。

 しかし可能な限り感情を除去することを心掛ける。みんな鬱な顔でいる中一人だけ笑顔と言うのはおかしい。俺の顔はたちまち能面のようになる。

 それは岸本も同じようで表情に全くの凹凸がない。感情を理性が押し殺してるといった感じだ。おそらく心の中では大音量の凱歌をあげているに違いない。


 俺は無表情状態を保ちながら、食料自販機で食料を買った。


 

 

 Cブロック。7日目。14時22分。


 俺と岸本はある計画を立てた。

 それは俺と岸本はみんなが寝静まる夜を狙って、Cブロックを抜け出し、中央広場に行くというもの。

 この計画のメリットは俺達と同じように扉を潜って中央広場に着た生徒達と接触することができ、何らかの情報を得ることができるということだ。

 なぜなら例のゲームについて具体的な情報が何もない中、どんな些細な情報でも大きな意味を持つからだ。

 それに場合によっては共同前線という手段もある。故になるべく仲間が多いほうがいい。同士勧誘もするつもりだ。

 

 また人間は何か行動を起こすとき、ことを公にしないようにするのが人としての性。扉のトリックに気付いた奴にもそれは当てはまるはずだ。

 つまり扉を抜け出すなら夜、みんなが寝ている時間帯を選ぶはずだ。同様にして俺達も夜に行動する。

 今のうちに下準備を積んでおけば、何かの役に立つはずだ。

 

 このことを杉下達に言わない罪悪感や後悔はあった。しかしそれらはここから脱出できるかもしれないという誘惑に抑えつけられていた。浅はかな独占欲と言うやつだ。

 その程度の欲望に逆らえない自分に自己嫌悪する。

 しかし俺は戻らなければならない。

 

 ここで昔話をしよう。

 話は十二年前に遡る。その頃はまだ五歳だった俺には当然両親と、三歳になったばかりの妹がいた。

 それなりの愛情を育てられた普通の子供。世間一般的な家庭だ。

 しかし運命と言うものは何とも残酷にできている物で、後から知ったのだが父は秘密裏に借金を重ねていたらしく、子を養えないという理由で母とともに夜逃げしたのだ。

 もちろん俺たち子どもは置いてけぼり。くだらないエンディングだ。

 今になって思うが、そのときから、俺達はもう終わっていたのかもしれない。

 やっと、楽しい小学校だというのに、初めから終結していたのだ。

 それが何と虚しいことか。

 

 そして、誓ったことがある。

 何としても妹を守ると。


 そのために俺は帰らなければならない。

 たとえ、体が朽ち虫巣食う肉塊となってもだ。

 故に、俺は攻略しなければならない。

 

 こんな、人の心を弄ぶ馬鹿げたゲームを。

桜木の身の上話の導入によって、話が変になったかもしれません。

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