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中央広場と道具屋のスピカ 【桜木視点】

 中央広場。7日目。3時8分。


 なーに、簡単な話だ。

 

 俺は中央を陣取る様に設置してある円卓の椅子に座った。

 目の前にあるCと描かれた扉を見る。

 それは本当に簡単な話だった。


「ってことは、この奥にはみんなが居たりするの?」

 岸本も俺の近くの所に立った。円卓のテーブル部分に手をつけて、何かを訴えるような表情を作った。

「そういうことになる」

 俺の返答に、岸本は考える像のような体勢で脳髄のジャングルに思考を沈めた。

 しばらくして、

「だとしたら、私たち以外にもいるかもしれないね。あそこから抜け出した人が」

 と、奇々怪々といった声。

 確かに、それはあり得なくもない。ただ、俺達が二人で協力したからここに早く到着しただけであって、あと、何日かしたら、俺のような推理をした奴らが、ここに出てくるかもしれない。

「だとしたらどうするんだ、協力してここから抜け出すか?」

「それが合理的だよね。とにかく、ここら辺を捜索してみよう。今みたいに発見があるかもしれないし」

 俺は首肯し、一階の通路に向かった。


 しかしその通路には鍵が掛かっていた。それはまるで城壁のように堅固でとても開く様には見えなかった。なにより鍵穴が見当たらない。

「ここは無理っぽいな」

 俺はそう見当付ける。眼下にある通路は、ここは通しませんと主張しているみたいに口を閉ざしていた。

「何かが足りないんだと思うよ」

「何って、何が?」

「私達の目をすり抜けた大事な駒が……かな」

 ……駒か。確かにリクライニングシートも例の扉もFカードも、全部プレイヤーのための駒だ。

 ゲームをより円滑にするための――――駒。

 

 仕方なく俺達は再び階段を駆け上がった。

 明らかに不可能と分かったら、きっぱりと諦めて、次に繋げたほうがいい。切り替えをしっかりしないとこの世界では生きていけない。賢者として行動しなければ脱出できない。そう思ったからだ。

 鈍色をした階段を後にし、薄暗い開けた所に出た。何メートルか先には、俺達が通ったCブロックのファンへと続く扉があった。

 全体的にあたりは暗く、RPGに登場する魔境を思わせた。だとしたらレグルスは中ボスで、主人(マスター)はラスボスか。そんなどうでもいいような考えが頭をよぎった。

 回れ右をして、すぐ横の通路に向かう。カギは掛かってなく、直接薄明るい通路を進む。

 通路は、SF映画の宇宙船の内部のような構造をしていた。異次元の扉を潜ったような気がした。

 やがて、小部屋が姿を現した。


 道具屋。7日目。3時15分。 


「ようこそ、道具屋へ。あなた方は最初のお客様です」


 チャッチャラァーチャン。

 そんな中古ゲームのようなイントロが流れた。どこか安っぽさすら感じさせる。それがなんとも不気味に感じられた

 その小部屋の壁には、綺麗なモスグリーンの装飾がされていた。まるで水平線の様に思えて、郷愁の念を禁じえない。

 この部屋の前方、床から一、五メートルくらいの高さにCブロックで何回も見た大きいディスプレイが取り付けてあった。その下には同様にカード口のような物。

 その電子が渦巻く画面の中に、女の形をした人形のような物が映っていた。形容するなら不思議の国のアリスに出てきそうな摩訶不思議、変幻自在のキャラクターみたいなやつだった。

 レグルスのように顔の所々に派手なマーカーが塗られていて、白い流麗な髪が背中にかけて放物線をえがいていた。


「当店にご来店いただき誠にありがとうございます。当店では、さまざまな便利アイテムを取り扱っております。見ていくだけでも結構ですから、ぜひご観覧を」


 ぺこりとそいつは丁寧に(こうべ)を垂れた。

 どこぞのショッピングセンターのような売り文句だった。

 なんだか訳の分からない光景に俺達はしばし呆けた。脳内には無数の疑問符が源泉のごとく湧きだっていた。


「おっと申し遅れましたね。私は道具屋の運営を担当します、スピカというものです。以後お見知りおきを」


 ()()()と名乗る人工知能は朗らかに微笑んだ。

 第二の人工知能の登場だった。

 どうやら、レグルスの他にもゲームを円滑に進めるためのキャラがいるらしい。

 新キャラの発生は、新たな進展を意味する。これも主人(マスター)の描くシナリオ通りに物語が進行しているとでも言うのだろうか。

 

「スピカっていうんだ。可愛い名前だね」

「ありがとうございます。そういえば、レグルスにはもう会いましたか?」

「会ったよ。あの扉でね」

 岸本は後ろの方を指差した。

 スピカは一瞬含みのある笑いを見せた。

「そうですか。となるとあなた方は当店始まって以来のお客様であると同時に、“参加者”でもあるのですね」

 “参加者”。それが何を意味するのかは明白だ。

「ちょっといいか」

「なんでしょう、桜木様」

「ここはどこなんだ? Cブロックの外だってことは分かるんだけど」

 スピカは生身の女性のような立体的な動作で、妖艶な白髪をかき上げた。丁寧な口調には似つかわしくない高圧的なしぐさだった。

「ここは道具屋です。そしてあちらの広い場所は中央広場です」

 ふと、自分の影が床の上で踊っていた。

 気になって上を見上げてみた。頭上で光をまき散らすのは、シャンデリアのような物だった。スピカが言う道具屋なる所は、他の場所と違い内装がしっかりしていた。なんだか西洋の城を彷彿とさせる。これもスピカの趣味なのか。倒錯的な乙女なのか。

「道具屋って何を売ってるのかな。まさか食料や生活用品とか言わないよね。それくらいなら、Cブロックでも買えるし」

「いいえ。そんなちんけな物ではありませんよ」

 と、スピカは一旦口を濁し、

「当店では、孤独を紛らわすコミュニケーションツールを販売しています」

 コミュニケーションツール。何やら怪しい物が出てきたな。

 俺は心の中で身構えながらも、極めて冷静に言った。

「それってどういった代物で」

「差し詰め携帯電話に近い物です。あなた方のFカードには、何かしらの番号が振ってありましたよね」

 俺と岸本はズボンのポケットからFカードを取り出した。例の無秩序な番号。ちなみに俺の番号は47番だ。前にレグルスが俺達にFカードを支給したときの番号だ。

「その番号は、いわばアドレスのような物でFカードを携帯電話にスラッシュすれば、いつでも連絡を取り合うことができます。また、メモ帳やカメラといった基本的なオプションも搭載しております」

 

 …………と色々ややこしくなったので、ここで一旦纏めてみよう。

 トイレのファンの奥にある扉を潜った俺達は中央広場なる場所に出た。一階には各ブロックに繋がる扉があった。実際にCブロックの扉の形態に非常に類似していたからこの推理は間違いない。そしてその階の通路は空いていなかった。

 それに対してその上の階の通路は開いていて、そのにはスピカという人工知能がいた。奴が言うにはここは道具屋と言うところで、携帯のような物を購入できるらしい。Cブロックの自販機とは全く違うタイプの物だ。

 そして携帯には他者のFカードをスラッシュすれば、連絡を取ることができるらしい。おそらくFカードの番号はこのための物だ。二百十人近くいる生徒を識別するためにこの方法を取ったのであろうことが窺える。またカメラ等のオプションも搭載しているらしい。


 ただ一つ問題がある。

 今現在俺達はその携帯を買うことができないということだ。

 他人との接触が困難なこの状況下で、携帯のようなメディア機器は非常に有効に働く。

 例えば、仮に2―3以外のクラスの人間がここに辿り付いたとき、いつ何時俺が近くにいずとも、そいつらを通じて他のクラスの状況や、何らかの変化事項を知ることができるからだ。

 何としても欲しい代物だ。だが携帯の値段がどうであれ、あの扉を潜るために所持金全部を叩いた俺達にはしばらくの間金が貯まるまで待つしか選択肢はない。


「それで、携帯の値段は」

「三万円です。供給三回分ですが、あなた方がすぐに購入できる値段ではありませんね」

 どうやら、俺達の経済情報はすでに把握しているらしい。スピカは俺達があの扉を使ってここに来たことを知っているのだろう。

 相変わらず、画面上で投影されている道具屋のスピカは魑魅魍魎の笑みを浮かべていた。

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