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第6話:在庫増加の連鎖

光一が倉庫内の温湿度管理の問題に取り組み、湿気を吸収する除湿剤の設置や通気性の改善などで少しずつ状況が良くなってきた矢先、新たな問題が彼を襲った。

それは、会社の物流体制の変更によるものだった。


ある朝、光一が倉庫に到着すると、営業部の高橋が険しい表情で待っていた。

高橋の顔を見るだけで、光一は胸騒ぎを覚えた。


「秋月君、ちょっと話がある」


高橋の言葉に従い、光一は事務所に向かった。

ドアを閉めると、高橋は深いため息をつき、光一に説明を始めた。


「実は、今まで週2回東京と大阪の支店へ大型トラックで商品を運んでいた定期便が、経費削減のために週1回に減ってしまったんだ。最近の業績不振からコスト削減が急務とされているが、その影響が物流にも及んでいるんだよ」


その言葉に、光一は驚きとともに不安を感じた。

定期便が減るということは、倉庫に保管される商品が増えることを意味していた。


「これで、倉庫内に今まで以上に在庫が貯まってしまうということですか…?」


光一の問いに、高橋はうなずいた。


「そうなんだ。さらに、外部の貸し倉庫からも契約上の収容数が限界に近いという連絡が入ってきている」


その情報は光一にとって、深刻な問題を示唆していた。

すでに商品が溢れかえっている倉庫に、さらに在庫が積み上がるという現実が目の前に迫っていた。


光一は急いで倉庫に戻り、同僚たちと対策を話し合うことにした。

彼らもまた、この状況に危機感を抱いていた。

中村、吉田、田中といった仲間たちが集まり、倉庫内の緊張感が高まっていた。


「どうすればいいんだ…?在庫がこれ以上増えたら、倉庫がパンクしてしまう」


光一の問いかけに、同僚たちは真剣に考え始めた。

しばらくの沈黙の後、吉田が口を開いた。


「まずは、倉庫内のスペースを最大限に活用する方法を考えよう。通路をできるだけ広げず、積み上げる高さを見直すとか。例えば、パレットの積載方法を変更したり、使用頻度の低い商品を奥に移動させるなど、効率的な配置を検討しよう」


光一はその提案にうなずいた。


「そうだな、少しでもスペースを有効に使うために工夫しよう。そして、外部の貸し倉庫の契約を見直すことも考えなければならない」


中村がさらに付け加えた。


「もし可能なら、不要な在庫を早めに処分することも考えたほうがいいかもしれない。少しでもスペースを空けるために」


光一はその提案にも同意し、すぐに動き始めた。


その日のうちに、光一たちは倉庫内の配置を見直し、スペースを最大限に活用するための対策を講じた。

吉田が倉庫内の配置図を描き、田中が商品の移動を手伝った。


「みんな、ありがとう。これで少しでも状況が改善できることを願う」


光一は感謝の気持ちを込めて仲間たちに言った。


---


数日後、光一は再び営業部の高橋に呼ばれた。

心配しながら事務所に入ると、高橋の表情は少しだけ和らいでいた。


「秋月君、君たちの対策が功を奏したようだ。倉庫内のスペースが少しでも有効に使えるようになったし、貸し倉庫との契約も再調整できた」


その言葉に、光一は胸をなで下ろした。

まだ完全に問題が解決したわけではないが、少しでも前進したことが嬉しかった。


「ありがとうございます、高橋さん。これからも改善に努めます」


光一はそう言って頭を下げた。

しかし、彼の心には、こんな付け焼き刃の対策では、何も解決にならないという強い危機感があった。


その日の夕方、光一は倉庫内を見回りながら、中村と話をしていた。


「中村さん、やっぱりこのままでは根本的な解決にはならないですね」


中村は頷きながら答えた。


「そうだな。根本的な問題は、預かり在庫が多すぎることにある。上層部が動いてくれればいいんだが…」


その時、新人の田中が急いで駆け寄ってきた。


「秋月さん、中村さん、大変です!またクレームが入ってきました」


田中の顔には明らかな焦りが見て取れた。光一と中村は顔を見合わせ、再び対策を考えることになった。


「田中君、クレームの詳細を教えてくれ」


光一は冷静に対処しようと努めた。

田中は手元のメモを見ながら説明を始めた。


「今回は、商品が破損して届いたというクレームです。湿気の影響で包装が弱くなっていたみたいです。お客様からは『こんな状態で届いては使い物にならない』とお叱りの声をいただきました。特に贈答用の商品だったため、信用問題にもなりかねません」


その言葉に、光一の心は再び重くなった。

倉庫内の問題が次々と顧客に影響を与えている現実が、彼を追い詰めた。


---


その夜、光一は自宅で妻の美咲と夕食をとりながら、仕事の話をしていた。

美咲もまた、彼の悩みを共有し、支え続けてくれていた。


「光一さん、会社の状況は厳しいけど、あなたならきっと解決策を見つけられるわ」


美咲の言葉に、光一は少しだけ希望を見出した。


「ありがとう、美咲。頑張ってみるよ」


彼はそう言って微笑んだ。


光一は、翌日も倉庫内での作業に追われていた。

吉田や田中、中村と共に、少しでも在庫の管理を改善するために動き続けた。

彼らは全員が一丸となって、問題解決に向けて努力していた。


「みんな、これからも頑張ろう。少しずつでも改善していこう」


光一の言葉に、同僚たちも力強くうなずいた。


---


その後、光一は外部の倉庫業者と連絡を取り合い、新たな契約条件を交渉した。

彼の努力の甲斐あって、少しずつだが状況は改善され始めた。

しかし、問題の根本解決にはまだ時間がかかることを彼は痛感していた。


「まだまだ道のりは長いが、諦めずに進むしかない」


その後も、光一たちは倉庫内の改善策を模索し続けた。

彼らの努力は、少しずつだが実を結び始めていた。

しかし、物流体制の変更が何を意味するのか、この時の光一には分かってはいなかった。

ただ、営業部の高橋は、薄々分かってはいたようだ。


「このままでは、会社が倒産するかもしれない…」


高橋の心の中には、不安と恐怖が渦巻いていた。

しかし、彼はそれを口にすることはなかった。

光一たちの努力が報われることを願いながら、彼もまた自分の仕事に真摯に向き合い続けた。


---


数ヶ月後、光一は倉庫内の改善策を講じ続けながら、少しずつだが顧客からのクレームが減少していることに気づいた。

彼の努力が実を結び始めていることに、彼自身も驚きと喜びを感じていた。


「やっと、少しずつだが前進している…」


光一には、高橋から聞いた物流体制の変更が、これからどんな影響を生み出すか予想が出来なかった。

ただ、彼には仲間たちと共に、前を向き続ける覚悟があった。


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