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言霊師は世界を律する  作者: 枢氷みをか


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恩返しのこと・十編

「まだ機嫌が直ってねえのか?ユーフィム」


 ギルドに向かう道すがら、律はやはり不機嫌そうに後をついてくるユーフィムを振り返る。

 ここ数日ユーフィムの機嫌は日を追うごとに上昇傾向にあった。それらの不満の矛先がすべて自分に集約されている事をすでに承知していた律は、無言を返してくるユーフィムにたまらず嘆息を漏らした。


「……何?リツなんかやらかしたのかよ?」

「んー…多分そうっぽい」

「…!?違う…!リツは何も悪くない……!!」


 訝しげにたずねたコーディの問いに肯定を返す律を、ユーフィムは慌てて否定する。それには律同様、コーディと律の肩掛け鞄からわずかに顔を出す黒虎こっこも、後ろのユーフィムを振り返って目を丸くした。


「………なら何でそんなに機嫌が悪いんだよ?」

「……あ、いや……だから……!」


 しどろもどろと言葉を濁しながら、そこから先の言葉をユーフィムはたまらず呑み込んだ。


 ─────よもや素直に、『第二皇子に会わせたくはない』とは言えない。

 コハクとの密会の折、ユーフィムは律をコハク達第二皇子側には決して渡さないと心に固く誓ったばかりだ。それは自分や一族のため以上に、律自身のためでもある。彼の能力と共に彼自身を隠そうとするのは、それらが公のものになれば否応なく各国による律の争奪戦が始まるからだ。


 当然、律の身は危険に晒されるだろう。捕まれば自由を奪われ保護という名の監禁生活を強いられる事になる。どこかの国に奪われるくらいなら律の存在そのものを消せばいいと考える国だってあるかもしれない。この世界にある十三の国の中には、人道にもとる行為を平然と行う国がある事を、ユーフィムは自身が生きた長い年月の中で嫌というほど理解していた。むしろそんな強硬手段に出る確率の方が、圧倒的に高いだろう。


 第二皇子という国の中枢に関わる人物に律の能力と存在を知られるという事は、そんな最悪な状況に至るきっかけを作るという事────なのにそんな危険に足を踏み入れようとしている自覚もなく、自分から進んで第二皇子に会いに行こうとしている現在の状況が腹立たしくて仕方がない。とはいえ、それを律本人に言えるわけもなく、ユーフィムは苦虫を潰したような表情を背けて、言い訳をする子供のようにぽつりと愚痴をこぼした。


「………だから………何で自分から進んで危険に足を突っ込むかな……」


 ユーフィムの心の声に等しい小さな呟きが辛うじて律の耳に入って、律は思わず目を瞬く。


「…………なんだ、機嫌が悪いんじゃなくて、俺を心配してそんな態度を取ってたのか」

「……!!」


 そのあまりに的を射た律の言葉に、ユーフィムはたまらず耳まで真っ赤に染めて閉口した。間違ってはいないが面と向かって言われると何とも恥ずかしく居心地が悪い。自分でも面映ゆいやらバツが悪いやらよく判らない感情に狼狽えるユーフィムを尻目に、律は隣にいるコーディを見下ろした。


「昨日コーディから聞いたんだよ。治癒魔法を使える俺は各国から狙われる可能性があるんだって?」

「!?コーディ!!リツには言うなって言っただろう!!?」

「だって言わなきゃ話始まんないし、第一危険があるならリツ自身がちゃんと把握してた方がいざという時対処しやすいだろ?」

「……っ!」


 全くもって正鵠せいこくを得た言葉に、ユーフィムはぐうの音も出ず閉口する。

 コーディは普段は馬鹿なくせに、時折こうやって鋭い意見を返して来る時がある。返答に窮しながら、それでも簡単に約束を反故にした口の軽いコーディに軽い抵抗を見せて頬を膨らませめつけるユーフィムを、律はくすりと笑った。


「────ありがとな、ユーフィム」

「………え?」

「お前そうやって隠れて俺を守ってくれてたんだな。……感謝してるよ、ユーフィム」


 二度目の謝意を受け取って、ユーフィムの心に真っ先に嬉しさと誇りが満たされたのち、それを追いかけるようにわずかな罪悪感が隙間をかいくぐってじわりとにじみ出る。確かに今は律を守る事を最優先事項だと決めてはいるが、当初彼に近づいたのはあくまで自分と一族のためだ。誰に言われるまでもなく自分が一番それを自覚しているだけに、バツが悪くて仕方がない。


 若干の居心地の悪さを感じるユーフィムに気づかないふりをして、律はユーフィムを安心させるように明朗な声を上げた。


「まあ、あんまり心配するなよユーフィム」

「え?」

「今から会う奴は、別に国のお偉いさんってわけじゃないんだからさ。そうだろ?コーディ」

「そうだよ。ギルドにたまたま来てた、ただのお人好しなんだからさ。リツの能力を知っても国に密告しようなんて思わないって」

(………だから密告する必要がないんだってばっ)


 何せ今から会いに行くのはこの国の第二皇子で、治療するのは第一皇子なのだから。


 ────そう、二人は気づいていないのだ。今まさに会いに行こうとしているのが、どこの誰なのかを。

 だからこそ余計腹立たしく、もどかしい。


 お偉いさんどころか中枢中の中枢に自ら会いに行こうとしている行動を全く理解していない能天気な二人にげんなりと肩を落としつつ、とはいえそれを伝えたところで律の性格上、決して病の治癒を中止する事はないのだろうと悟って、ユーフィムは結局自分が折れるしかない現状に諸手を上げるように嘆息を漏らした。


**


 ギルドに入った途端、律の視界に映ったのは、律の姿を見止めて硬直したように動きを止め、鳩が豆鉄砲を食ったように手に持っている書類を落としているロゼの姿だった。


「あー……ロゼさん…久しぶり……。えー……と、俺を血眼になって探してるって聞いたんだけど─────」

「リツさまああああああああ!!!」


 バツが悪そうに目を背けながら、しどろもどろと落とした律の言葉は、まるで慟哭のように律の名前を叫ぶロゼの声に呆気なくかき消される。慌てて駆け寄るロゼのその瞳が軽く潤んで見えるのは、気のせいだろうか。


「なにいいいい!!!?リツだとおおおお!!!」


 同じく声を張り上げたのは、このギルドの長だ。

 ロゼの声が上の階まで聞こえたのだろう。その大きな体躯から発せられた声はまるで地響きのようにギルド中を駆け回り、大きな体躯が階段を下りるたび実際に地を揺るがす地響きがギルド中に轟く。次第に露わになるそのギルドの長の顔は、もともと強面という事もあってなおさら激怒しているかのように険しく見えた。


「一体今までどこで何をしていた!!?リツっっ!!!!!」

「………大声出すなよ、ゼフォルのおっさん。鼓膜が破れる」


 眉根を寄せて耳を塞ぐ律に、ゼフォルはすぐさま暖炉を指差しながら、わずかに声量を抑えて告げる。


「話はあとでいい!!!!とにかくあれを消してくれ!!!!」

「…?あれ?」

「火だ!!暖炉の火!!!」

「……………消せばいいだろ?」

「消えんのだ!!あれはお前の魔法だろう!!薪がなくとも燃え続けて二進にっち三進さっちもいかんのだ!!!!」

「はああ………っ!!!?」


 さしもの律も想像だにしてなかったその状況に、目を丸くして間の抜けた声を上げた。


「燃え続けてって、あれから何日経ってると思ってんだよ!!?」

「それはこちらの台詞だ!!!もう七日だぞ!!七日燃え続けてほとほと困り果ててるんだ、こっちは!!!!」

(……………だから血眼になって探してたのか)


 ロゼとゼフォルのあまりの狼狽っぷりに逆に心が静まって、律は内心呆れたようにひとりごちる。


「………悪かったよ、ゼフォルのおっさん。まだ魔法がうまく使えねえんだよ」


 言いながら苦笑を漏らして、律は指をぱちんと鳴らす。それに呼応して七日間燃え続けた炎があっさりとその姿を消した様子に、周囲から軽いざわめきと、反面ゼフォルとロゼの安堵のため息が同時にギルド内を駆け巡った。


「……上手い下手の話ではない。どんな大魔法士でも、七日間燃え続ける炎なんて生み出せんぞ…」

「そうなのか?」

「魔法は魔力を消費いたしますから。どれほど魔力の多い方でも一日中炎を燃やそうと思えば、おそらく四日が限度でしょう」

「へえ…!」


 ロゼの説明に感嘆の声を落としながら、律はつい先程まで燃え続けていた暖炉を視界に入れる。


「……そか、じゃあ随分無理させたんだな。────悪かったよ、ありがとう」


 誰にともなく謝罪と感謝の言葉を落とす律に、ユーフィム以外の誰もが訝しげに小首を傾げた。


「………一体、誰に言ってるんだよ?リツ」

「ん?決まってるだろ?暖炉の火を維持してくれた炎の精霊にだよ」


 コーディの問いに返した律のその返答になおさら目を瞬いて、皆理解できないとばかりに不思議そうな顔を互いに見合わせている。


「………リツ様は精霊が見えているのですか?」

「見えるわけねえだろ」

「………見えていないのに礼を言うのか、お前は?」


 質問を重ねてくるロゼとゼフォルに、今度は律が彼らの質問の意図するところが判らず盛大に眉根を寄せた。


「?何が言いたいんだよ?見えなくても存在してるから魔法が使えるんだろ?」

「……!」

「特に俺は魔力がないのに魔法が使えてる。それは言ってみれば精霊の純粋な厚意によるものだろ?……精霊だって生きている以上、疲れる事だってあるはずだ。なのに対価となる魔力を渡していないにもかかわらず七日間も炎を維持してくれた精霊に、感謝と謝罪をする事はそんなにおかしな事か?」


 その寝耳に水の律の言葉に、やはり皆一様に目を瞬いた。


 ────魔法が使える事は、ごく当たり前にあるものだと誰もが思っていた。

 知識の上では精霊の恩恵によるものだと理解していたし、魔法を使う時の詠唱に『我に恩恵を与えたまえ』という文言が入っている事もよく判っているつもりだった。だが詠唱の文言は、ただ魔法を使うために必要な事務的なもので、対価を払っている以上魔法が使える事は当然の権利だと思っていた。当然の権利ゆえに、その恩恵をもたらしてくれる精霊に感謝をする必要さえないと誰もが思っていた。その姿が誰の目にも見えない以上、感謝の念が薄れる事は至極当然の成り行きだろうか。


 そんな誰もが当たり前のように持っていた常識を覆すような律の言葉に、皆瞠目するような面持ちで律を眺めた。

 『聖女に見放された世界』は、精霊の恩恵と慈悲によって生き長らえている─────この世界に住む者ならば誰もが知っている常識が、否応なく脳裏に浮かんだ事は言うまでもないだろうか。


「…………やっぱりリツって、なんか変わってるよな」


 ぽつりと小さく呟いたコーディの呆れとも感嘆とも取れる独白に、隣にいたユーフィムが静かに反応を示した。


「─────俺には判るよ」

「……!」

「俺には判る。リツがああいう人間だからこそ、みんなリツに協力したくなるんだ」


 ─────精霊も、ヘルムガルドも、そして自分でさえも。

 そんな律だからこそきっと、あの特異なスキルが与えられたのだろう。


 一人得心したように確固たる視線を律に向けるユーフィムを一瞥して、コーディは何に起因するのかよく判らない不愉快さを表すように、眉間にしわを寄せた。


「………みんなって誰だよ?」


 コーディの中の不愉快さが何から起因するものなのかを理解しているユーフィムは、それをなおさら助長するかのようにお得意の妖艶な笑みを浮かべて挑発するように告げる。


「こっちの話。多分言ってもコーディには判らない」


 実際、人間であるコーディには決して理解できない感覚だろうか。


 そんなユーフィムの態度が小馬鹿にしていると感じて顔を真っ赤に憤慨するコーディをくすくすと笑う二人を尻目に、ギルド内では小さな喧騒が続いていた。


「……おい、聞いたか?あいつ魔力もないのに魔法が使えるって………おかしくないか?」

「いや、それよりもさっき詠唱も何もなしに、指を鳴らしただけで魔法を消したんだぞ?そっちの方が異常だろ……」

「そもそも七日間も炎を維持するって人間離れし過ぎてんだろ……バケモンか?」


 聞こえてくる囁きは、すべて律に向けられた言葉だ。

 元々、目立つ事が好きではない律にとっては、針のむしろに座る心地のようにひどく落ち着かない。

 律は居心地悪そうにげんなりとした表情で嘆息を落として、ロゼとゼフォルに向き直った。


「……あー……とりあえず話は上でしないか?」

「ん?…ああ、そうだな」

「ではこちらに」


 ロゼに促されるまま、律は渡り鳥たちの視線から逃れるようにゼフォルに続いて階段へと向かう。その後ろをコーディが、そしてユーフィムが素知らぬ顔でロゼの前を通り過ぎたところで、ロゼは自身の視界を横切った人物の姿に、思わず目を疑った。


「……!??」


 硬直したように思考が一時停止した後、ロゼは我に返って慌てて階段に顔を向ける。そのロゼの視界に映ったのは、見間違いなどではなく思った通りの人物が階段を登りながらこちらをちらりと一瞥して、不敵な笑みを浮かべる信じがたい光景────。


「ユユユユユユユーフィム様……っっ!!?なにゆえこちらに……っっ!!?」


 階段をちょうど登りきったところで、慌てて後を追ったロゼがユーフィムに声をかける。そのひどく狼狽しきったロゼの様子に、ちょうどゼフォルの執務室に入ろうとしていた律が訝しげに振り返った。


「ただのリツの連れだ。何か問題があるのか?」

「もももも問題などと滅相もございません……っっ!!!」

「ならいちいち声をかけるな」

「………も、申し訳──────」

「何だ、二人知り合いか?」

「…!!?」


 いつになく冷ややかな応対をするユーフィムと、いつも以上に恐縮して腰を低くするロゼを互替かたみがわりに見ながら訊ねた律の質問に、二人仲良く目を白黒とさせて間髪空けずに答える。


「違う!!こんな奴知り合いじゃない!!」

「めめめめ滅相もございません……っっ!!!ユーフィム様と知り合いなど恐れ多い……!!」

「……………………」

「……………………」


 その対照的な二人の返答に、律は思わず苦笑を落とした。


「あー……でも、同じ一族なんだろ?」

「!!?なんでそれを!!!?」

「………………いや、なんでって……民族衣装───って言っていいのか?……二人の服、よく似てるだろ」


 驚く二人にやはり苦笑を送りながら、律はさもありなんと返す。


 ロゼの服は袖も裾も長く、いわゆる古代中国の漢民族が着ていたという漢服カンフーのような動きづらい形状なのに対して、ユーフィムの服はできるだけ無駄な布を取り払って動きやすい形状に作られている。形だけを見ると全くの別物に見えるが、二人の服はどちらもその袖が広くゆったりとした大袖で、服の装飾はわずかに中華服を彷彿とさせた。これほど酷似した服装を着ておいて、よくもまあ同じ一族である事を隠せると思ったものだと律は呆れをふんだんに乗せた苦笑を三度みたび落として見せる。


「あー!!言われてみれば確かに二人の服少し似てるな!!」

「………うむ、確かに」

(……………いや、気づけよ)


 改めてそこに思い至るコーディとゼフォルに突っ込みを入れつつ、視界に入れたユーフィムとロゼのあまりにぎこちない様子に、律は以前ユーフィムが投げやりに落とした言葉を思い出す。


 ─────(俺は『何も出来ない一族の落ちこぼれ』だと散々陰口を叩かれて育ったからね)


 同じ一族だという事は、少なくともロゼも『何も出来ない一族の落ちこぼれ』というユーフィムの陰口を知っているという事だろうか?

 だからこそ、ユーフィムは同じ一族であるロゼに対してあれほど冷ややかな態度を取っているのか─────。


 そんな憶測の域を出ない邪推を取り払うかのように小さくかぶりを振りつつ、だが何やら事情があるのだという事だけを悟って、律は仕切り直すように一度小さくため息を落とした。


「……まあ、とりあえず中に入ろう」


**


「単刀直入に言うぞ、リツ。お前を探している御仁がいる」


 ゼフォルの執務室に入ってすぐ、律たちがソファに腰を落ち着けたところで、ゼフォルは前置きもなく率直にそう告げる。それには特に興味を示すでもなく、律はにやりと笑って同様にギルドに来た用件を単刀直入に告げた。


「奇遇だな、俺も人を探してるんだ」

「何?」

「悪いけどこっちを優先してくれ。人の命がかかってる」


 緊張感を伴った律の言葉に、ゼフォルとその後ろで控えるように立っているロゼは一度顔を見合わせてから、訝しげに眉根を寄せて再び律を見下ろした。


「……どういう事だ、リツ?」


 その問いに律はわずかに思案する。

 己の治癒魔法の一切を彼らに話してもいいのか軽く思議しぎを経てから、律は口を開いた。


「……コーディがある人物から恩を受けた。その人物の兄貴がどうやら不治の病に侵されて余命わずからしい。……だが俺にはその不治の病を治す手立てがある。治療の知識が、俺にはあるんだ」

「…!……それは……お前の世界ではその不治の病の治療法が確立しているという事か?」

「……ああ、そう思ってくれていい」


 最終的に治癒魔法の情報を伏せる結論に至ったが、それ抜きで説明をするとなればこれが一番自然な回答だろうか。


「放っておけば失われる命だ。だが俺が行けば必ず救える命でもある。俺に助けさせてくれ。その御仁とやらにはその後いくらでも会ってやる、約束する」


 わずかに険しい顔を取って考え込むような仕草を見せるゼフォルの背中を押すように、律はことさら時間的猶予がない事を強調し、ゼフォルの情に訴えるような言い回しを取る。わずかに沈黙が訪れてから盛大に落としたゼフォルのため息の中に、罪悪感か、あるいは諦観のどちらの感情が乗っているのかを見逃さないように、律は固唾を呑んでゼフォルの返答を待った。


「……気持ちは判るがな、リツ。お前を探しているという御仁も血眼になってお前を探している。その依頼を受けた以上、ギルドとしてようやく見つけたお前を、おいそれと見過ごす事はできんのだ」

「………………血眼になって探してたのはゼフォルのおっさんだろ?」

「たかが暖炉の火ごときで血眼になって探すか……!」

(……………その割に切羽詰まってたようだけどな)


 とは思ったものの、あえて口には出さず心中に留めて、代わりに不愉快そうな表情に律は皮肉を込めた。


「………人の命よりもその依頼を優先するって事は、その御仁とやらは随分と身分が高いらしいな」

「それは………その通りですが、彼らにも事情があるのです。詳しい内容は話してはいただけませんでしたが、どうやら人の命がかかっているのだと……」

「…!…………まじか」

「それもかなり逼迫しているようです。猶予は八日────いえ、一日過ぎましたので、残された時間はあと七日」


 それにはさすがに律も頭を抱えるしかない。身分の違いによって命の重さが変わるとは思っていないが、さすがに明確な命の期限を告げられては、無下にはできないだろう。だからと言って、コーディ達の恩人を見捨てるなど問題外だ。


 どちらも見捨てる事はできず、どちらかを選ぶ事もできない。律は頭を悩ます難問に盛大に嘆息を漏らして、文字通り頭を抱えた。


「……………二人同時に治療するしかないか……」

「一人でいい」


 覚悟を決めた律の囁きに反論したのは、不機嫌そうに腕を組んでそっぽを向いているユーフィムだった。


「………一人って……どちらか一人を見捨てろって言いたいのか……?」


 目を見開き茫然自失とユーフィムを見返す律の瞳には、少なからず憤りが見て取れた。それに一瞥をくれた後、ユーフィムは諸手を上げるように大きく息を吐いた。


「……見捨てる必要はない。でも助けるのは一人でいい」


 まるで問いかけのようなユーフィムの言葉にゼフォルたちは小首を傾げて、唯一律だけがその言葉の意味に思い至る。


「………まさか」


 目を見開きこちらを凝視する律に、ユーフィムはくすりと笑った。


「さあ、答え合わせをしようか」


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