渚の旅人
海辺の匂いと若々しい緑に覆われた小さな丘の上に、一人の少年が立っている。少年はただ静かに海を見つめ、そっと両手を大きく広げる。風に乗って空を漂うウミネコ、小さな湾を挟んで少しだけ遠く感じる小さな山々、そしてその麓には銀色に輝く人々の営み。自然にひっそり佇む、人間の生命。
迫り来る群青の海が生み出す大きな音。それは絶え間なく重なり合い、次から次へと少年に迫ってくる。人間がが互いに潰し合って、潰し合って、潰し合って、そして最後の一人がこの地球から消えてしまっても、海は歩みを止めることはない。人間なんて気にも留めず、地球が創り出した風に乗って、絶え間なく踊り続けるだろう。
少年の視界は、やがて青一色に染まった。それは、群青の海と爽やかなブルーに染められた空を、一つにまとめあげた豊かな青色だった。やがて、少年は海の上を歩き出す。ゆっくりと、波に乗って、風に乗って。
人々は、空になって、時には海になる。自由に飛び回って、海と空とひとつになる。海は騒ぎ出す。目の前で生み出された音は、遠くで生み出された音であって、遠くで生み出された音は、もっと遠くで生み出された音なんだ。遥か彼方からの贈り物が、渚に佇む少年の手に届けられた。
少年はそっと両手を下ろし、目を閉じた。遠く、遠くからの贈り物。海はずっと、踊っている。