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第92話 決め付けるものではない

「ってな事があったんですよ~~」


「はっはっは!!!!! そうかそうか、それは済まんかったな!」


珍しく夕食後に屋台バー、ミーティアで営業しておらず、アストは仕事を終えたベルダーと共に呑んでいた。


「本当に済まないと思ってますか?」


「思っているとも。しかし、随分と小娘を上手く丸め込んだじゃないか」


アストとヴァレアの間で問題が起こった場合、自分はアストの味方をしなければと考えていたベルダー。


案の定、ヴァレアはアストの元を訪れはしたが、結果として問題らしい問題に発展することはなかった。


「丸め込んだと言いますか、上手く意識を逸らせたと言いますか…………正直なところ、まだ完全に諦めたようには思えませんけど」


「少し突っ走るところはあるが、本当に自分の欲だけしか考えられないバカじゃない。あの刀自体は諦めてる筈だ。あいつの上の連中も、仮に小娘が暴走しそうになったら、拳骨を振り下ろすだろうよ」


「上の連中、ですか」


王都でバーテンダーとして活動していれば、客として訪れてくる冒険者たちから勝手に情報が伝わってくる。


(一番上の人は、Aランクの方で、他にもAランク冒険者が在籍してるクランだよな……さんざんあまり頼ってはならないって決めてたけど、ベルダーさんの言う通りにならなかった場合、俺も頼っても良いかな?)


仮に……万が一権力勝負に発展してしまった場合、アストとて切れない手札がないわけではない。


「……まっ、美女と旅を出来ると思って楽しむしかないと切り替えてはいますけど」


「なんだ、狙うつもりか?」


「いや、別に異性としても、雄としても狙うつもりはありませんよ」


そもそもの出会いからして、面倒な匂いがぷんぷんしている。

そして家出同然で冒険者になった訳ではないという事も知っており、まだまだ元気なアストであっても、狙ってみようとは全く思えない。


「なんだよ、いっちょ頑張ってみろよ」


「俺の本業は、流れのバーテンダーですよ。基本的に、何かに縛られたくはありません」


「そういえばそうらしいな、小僧。同業者から聞いていたが、本当にただの冒険者ではなかったんだな」


「そんな大層なものではありませんよ」


ベルダーの奢りであるテキーラを飲み干しながら、変わらず謙虚な態度で答え続ける。


「……お前の店に行った同業者が、随分と褒めていたぞ。流れのバーテンダーなのが惜しいとな」


「あぁ…………あの人ですか。ふふ、本当に……最高の褒め言葉ですね」


ここ最近、アストの店に訪れた鍛冶師は一人しかおらず、直ぐにベルダーにミーティアの感想を伝えた人物を思い出した。


「…………どうだ、バーテンダーとして活動していたら、ワインとかはあまり良く思わないのか?」


酒と酒、もしくはそれ以外の材料を組み合わせるカクテル。


対して、ワインという呑み物は……それだけで完成している至高の逸品。


「いえ、特に思うところはありませんよ」


「ほぅ……それは何故だ」


「何故、と言われましても、それは比べるものではないからですね。例えば、遠距離攻撃を行う職業は弓術士と魔法使い、基本的にはこの二つですが、絶対にどちらが優れているとは言えないでしょう」


どちらにもメリットとデメリットがある。


遠距離攻撃をメインとする者に限らず、スピードを武器とする騎士とパワーを武器とする重戦士、どちらが優れていると……比べることはまだしも、決め付けるのはナンセンスだった。


「そうだな。確かにどちらが優れていると決めつけることは出来ないが…………全く、小僧。お前は本当に小僧なのか?」


プライドがない様には思えない。


しかし、若く青い野心やプライドは感じられない。


「俺は、ただ店に訪れてくれたお客さんたちに、ミーティアに訪れて良かったと満足していただければ、それで十分なので」


「…………だからこそ、その歳でそれだけの実力があるという訳か。そう考えれば、色々と納得も出来なくはないな」


ベルダーは増々アストという小僧の事を気に入った。


「おい小僧、刀以外にも何か欲しい物はないのか」


「どうしたんですか、急に。大斧と名刀を買えて、ベルダーさんが造る刀を貰える。俺はそれだけで十分ですよ」


「……確かに、あんまり防具を付けるタイプではないか…………まっ、王都にいる間、武器や防具で困ったことがあれば、いつでも頼れ」


「えぇ、その時は是非とも頼らせてもらいます」


二人は再度注がれたテキーラが入ったグラスを合わせ、美味そうに呑み、喉が焼かれる感覚を楽しむ。


二人は店が閉まる時間まで呑み続け……ベルダーの驕りだからといって、ペースを合わせ続けたアスト。

無事に宿へ戻ることは出来たものの、久しぶりに完全な二日酔いに悩まされることとなった。

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