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第72話 カロリーなど無視

「……子供の様な感想になってしまうが、まるで魔法使いの様だな」


騎士の男は、少し恥ずかし気な表情を浮かべながらも、アストがカクテルを作る様子をそのように例えた。


「光栄な感想です」


嬉しい感想に素の笑みを零しながら、次々に注文を受けた料理を作り上げていく。


「なんだか……本当に、ちょっと悪いことをしてる気分になりますね」


ベーコンとチーズ、コーンが乗ったピザを前にして、魔術師の女性はその様な感想を零した。


「同感、ですね……」


アヒージョを注文した戦闘も出来る名ぞも同じ感想を持った。

ただ……そんな中でも、バター醬油飯を注文した騎士は……一番良い意味での罪悪感を強く感じていた。


(こ、これは…………っ、魔力でも……かかっているのか?)


そんなことはない。

アストは普通の米、バター、醬油しか使用していない。


しかし、男の食欲という欲求が、今すぐ目の前の飯を食べつくせと、強烈な信号を送ってくる。


「どうぞ、召し上がってください」


マティアスは魔術師と戦闘メイドからピザとアヒージョを分けてもらい、堪能。


二人も既に夕食の時間が過ぎている時に食べる罪な料理の味に……思わず頬を緩めてしまう。


「……っ、ッ!!!!!」


そんな三人をよそに、騎士の男は最初の一口を食べ終えた後…………食欲という欲求が爆発し、騎士らしからぬ様子で一気に椀に入っていた米を平らげてしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「え、えっと……大丈夫ですか?」


「あ、あぁ。勿論大丈夫だ…………マスター、まずは言わせてほしい。美味かった」


「どうも、ありがとうございます」


調理と言える調理をした料理ではないが、それでもストレートに美味しいと言われれば、やはり嬉しい。


「そして、もう一杯貰えるだろうか」


「お、同じのをですか?」


「あぁ、同じのをだ」


一応……ミーティアはバーである。

バター醬油飯などは、アストが何となくメニューに入れても面白いかな~と思って入れたメニューであり、料理メニューの中でも決してメインの料理ではない。


その為、使用している椀はあまり大きくなく……あっという間に食べ終わってしまった騎士の腹は、腹二分目ほどしか満たされていなかった。


「わ、分かりました」


既に米はホカホカな状態で炊きあがっているので、装ってバターを乗せ、醬油をかけてあっという間に完成。


「はい、どうぞ」


「うむ、ありがとう」


感謝の言葉を述べると、男は……今度はゆっくりと味わおうと思ったが、またあっという間に食べ終わってしまった。


「「「…………」」」


その光景を見て、マティアスたち三人は、思わず涎を零しそうになった。


(ど、どんな味、なんだろ)


(か、かきこんで食べるとは行儀が……いえ、しかし貴族出身の騎士がここまで体裁を気にせず食べてしまう味とは……)


(あのバター醬油飯って、お腹に溜まりやすい、のかしら? このピザでさえ、結構お腹に溜まりそうなのに……でも…………)


結局三人は我慢できず、騎士の男と同じくバター醤油飯を注文。


(……どうせなら、何か適当な物でも作るか)


アストはサービスで唐揚げを作り始め、漬物のきゅうりもテーブルの上に置いた。


「っ、アストさん。私たちはバター醬油飯しか注文していませんが」


「サービスです。そんなに良い顔されたら、少しぐらいサービスしたくなりますよ」


全員がバター醬油飯を食べ終えた頃に、四つのご飯と十数個の唐揚げときゅうりの漬物がテーブルに並んだ。


(う~~~ん……勝手にサービスで唐揚げときゅうりの漬物を用意しちゃったけど、もう完全に定食だよな)


どう見てもバーで見る光景ではない。

だが、サービスしたくなったものは仕方ないと諦めるしかない。


「ささ、どうぞ。冷めないうちに」


全員の腹には、既にバター醬油飯とピザ、アヒージョが入っている。

騎士の男に関しては、既にバター醬油飯が二杯分入っている。


しかし……それらはマティアスたちにとって、非常に些細な問題だった。


(あっ、揚げ始めないと)


一応、一応念のためアストは直ぐに追加で唐揚げを作れるようにしていたが、その懸念は見事に的中。


あっという間に唐揚げは消え、漬物きゅうりも凄い勢いで消費されていき、唐揚げを上げている間に四人の椀にご飯を追加することになった。


「アストさん!! こ、これ……さ、最高です!!!!」


「ありがとうございます、マティアス様」


語彙力が超低下してしまったマティアス。


「こちら、酸っぱいのがお嫌いでなければ」


アストがカットしたレモンを用意すると、戦闘メイドと騎士の男が自身の唐揚げに使用。


「っ~~~~…………アストさん。答えは解っています。しかし、言わせてほしい。是非とも、王城のシェフとして働きませんか」


「嬉しいお誘いですが、やはり私の本業はバーテンダーですので」


護衛の騎士たちに、視線で彼をスカウトするのは止めなさいと叱っていた者がとツッコまれるかもしれないが……それでも、執事や家庭教師……ではなく、シェフとしてスカウトせざるをえなかった。

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