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第19話 身分とは

「座っても、良いかな」


「勿論です」


スラディス、マックスたちと盗賊団の討伐を終えたアストは、数日後には別の街に移っていた。


そして新たな街で生活を始めてから五日後の夜、一人の若い騎士がミーティアに訪れた。


「こちらがメニューになります」


「ありがとう…………では、このブルームーンというカクテルを頼んでも良いかな」


「かしこまりました」


ドライ・ジン、バイオレット・リキュール、レモンジュース、氷を適量を用意。


カクテルシェイカーに三つのドリンクを入れた後に氷を投入。

そしてふたを閉め……十五秒ほどシェイクし、カクテルグラスに注ぐ。


「お待たせしました、ブルームーンになります」


「っ……美しい」


騎士と思わしき男性は、なんとなく名前の響きだけでブルームーンを頼んだので、いったいどんなカクテルなのか解っていなかった。


(紫……いや、僅かに青い? こんな……お酒があるとは)


今日、男は少し自棄になりたい、酔いたいという思いで偶々耳にした屋台のバーを訪れたが……予想外の衝撃を受けた。


「ありがとうございます。こちら、かなり度数が高めになっております」


「あぁ、安心してほしい。それなりに吞める方だからね」


そう言いながら一口飲むと……高いアルコール度数、よりもその呑みやすさに二度目の驚きを体感。


「……これで、度数が高いんだね」


「個人的に、後から効いてくるカクテルかと」


「なるほど……呑み過ぎ注意、ということだね」


「その通りです」


とはいえ、男は酔いたい気分。

酔わせてくれるカクテルは非常に好都合だった。


そしてお通し、ドライフルーツの後にピザを提供した後……男性騎士、タルダ・ファーレンの口から愚痴に近い言葉が零れた。


「何故…………この世には、身分というものがあると思いますか」


「…………」


タルダからの質問に対し、アストにはアストなりの考えがあった。

ただ……村という狭い世界から飛び出して約三年。

平民以外の人物と出会う機会が多少なりともあり……目の前の人物が、貴族であることは薄々気付いていた。


(……ふ、不敬罪にならないよな?)


そもそもこういった質問をしてくる時点で、身分という存在に不満があるのだろうと考え……意を決して口を開いた。


「昔……はるか昔、まだ国という概念すらなかった時代に、力を持つ者たちが、明確に自分は他の者たちとは違うという存在を欲したところが、始まりではないかと」


「なるほど。自己顕示欲、というものですね。では、その力を持つ者たちの中でも、更に格差は必要だと、思いますか」


「……学が足りない身ではありますが、土地が……国が豊かになるには、競争性が必要かと。故に、力を持つ者たちにも高め合う差を作ったのかと」


「高め合う、ですか。そうですね…………そういった考えから、生まれたのかもしれませんね……すいません、もう一杯同じのを頂けますか」


「かしこまりました」


ブルームーンが気に入ったのか、再度注文するタルダ。


(それなりに吞めるんだろうけど、アルコール度数が二十五以上のカクテルを連続、か……いきなりぷつっと、電池が切れるかもな)


とはいえ、暴飲暴食をしているようには見えないため、注文された通りに再度ブルームーンを作る。


「お待たせしました」


「……ふぅ~~~。良い味だ…………店主、マスターは恋愛を経験したことは、ありますか」


「恋愛ですか……恋心を抱いたことは何度かありましたが、真剣にその感情に向き合った事は、まだありません」


生まれた村に、五歳ほど歳上の女性がおり、彼女が年頃の女性になると……前世では二十二歳であったアスト(錬)も、綺麗だなと思い始めた。


そして昼は冒険者、夜はバーテンダーとして活動すようになり始めれば、当然自分より歳上の女性や……魅力的な同年代の女性とも出会う機会があった。

しかし、本業がバーテンダーであるアストは、同じ街には基本的に何か月も居続けないと決めており、特定の拠点を持たない。


独特な生活を送っていることもあって、そもそもそういった存在を作らないと決めていた。


「そうなんだね。僕には……長年、思い続けてる子がいるんだ」


タルダはぽつぽつと語り始めた。

自分は子爵家の令息で、長年思い続けている女性は侯爵家の令嬢。


今自分は騎士であり、侯爵家の令嬢は団に属する魔法使いとして活躍している。

思いを伝えるだけで、叶うほど甘いものではないと解っている為、相応しい男になるため日々精進して功績を得ようと前に進んでいる。


それでもここ最近……どこまで頑張り続ければ良いのか分からず、終わりの見えないゴールが苦しく感じ始めていた。


(……軽く視た感じ、全く弱くない。寧ろ、年齢は……二十歳頃? 俺と殆ど変わらないことを考えれば、十分強いというか…………もしかして、スラディスさんやマックスさんよりも強い、か?)


実際に手合わせして強さを体感したわけではないが、アストから見て……何故、この騎士がここまで悩んでいるのか解らなかった。


だが、自分は平民で、目の前の男性騎士は子爵家の令息。

自分には解らない悩みがあるのだと、無理矢理納得させる。


(漫画家がようやく連載開始したけど、これから上手くいくか否かが全く解らない……一年は耐えたけど、この先どうなるか解らない……みたいな感じなのか?)


これまで恋愛相談は何度も受けて来たアスト。


しかし、前世も含めて一般人……平民という立場であったため、貴族たちの恋愛に関しては良いアドバイスが中々出てこなかった。

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