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入部届、君に届け!

誤字がありましたら、報告してくれると幸いです。

 

 旧校舎二階。

 階段から歩いて三つ目の教室──否、準備室(?)が大筆先輩達の活動する部室だった。


 普通の教室と比べればやや小規模だが、同好会ならちょうどいい大きさだろう。


 先輩に続くように中央のテーブルに本を置き、一言(ひとこと)言って僕は帰ろうとする。


 今日は愛読している作家さんの新刊が出る日なのでな。

 一刻も早く本屋に向かわなくては。


「それじゃあ僕はこれで……えっと、活動頑張ってください」


 そう言ってドアノブに手をかけ、回したが、押しても引いても扉が開くことはなかった。



 …………ん? ()()()()、だと……?



「──ここの教室はちょっと特殊でね。()()()()も鍵をかけることができるの」

「え? 内側からも、ですか?」


 そう言われて見てみると、確かにドアには鍵穴がある。……あるけど、え? 


「ああ、単なる自慢か」

「違うよ、自慢じゃないし! 霜月君を閉じ込めたんだよ!」

「え、それってどういう──」

「ふふ、それはね」


 状況が把握できずに混乱している僕に大筆先輩は、

「霜月君……」

 一直線に僕を見つめ、含みのある声でそう言い始める。


 あれ、なんとなくシリアスな雰囲気になってきた。

 ここは後輩として空気を読むべき場面なのでは? 

 よく先輩を立てろって言葉聞くし。

 

 ということで、僕は空気づくりのため目を見開き、周囲を見渡し、最後に大筆先輩を見つめる。


 回想もこういう時大切か。


 ──思い返せば持ってきた本も、首なしの武将や逆に首だけの武将など、おどろおどろしい絵が表紙の本ばかり。

 

 机の上にある本を今一度見つめると、心なしか魂魄(こんぱく)が宿っているように見えた。


 僕はもう一度、大筆先輩を見る。今はその妖艶(ようえん)たる容姿に危機感を持たざるを得なかった。


 一体どうなってしまうのだろう、と僕は危惧する。


「君には我が同好会──」

「ツボなら買いませんよ?」

「キャッチセールスじゃないから!? なんで? 今すごい良い感じだったじゃん……あと一歩だったじゃん!」

「すみませんてっきり、一日一歩、三日で三歩、三歩進んで二歩下がる方式かと思っちゃいました」

「そ、そんな方式あるの? ごめん私そういうの全然知らなくて……」

「安心してください、そんな方式僕も聞いたことありませんから」

「聞いたことないんかい!? じゃあもう一越(ひとこえ)させてよ!」

「わかりました。じゃあ、もう僕からは何もしません。どうぞ」

「わ、わかった。なんか腑に落ちないけど。……君をはめたのは事実だけど」

「え、それってどういう──」


 大筆先輩は僕の質問に対して薄く微笑んだ……ということはなく、ふふん、とどこか自慢げな顔だ。

 

 その途端にまた不穏な空気が流れ始めた……気がする。


 一体、ここは何の同好会なのだろうか──


「我が同好会──」


 僕はつばをゴクリと飲み込む。


 ブー。


「あ、すみません、メッセジー届いたんで確認してもいいですか?」

「なんでこうも私の見せどころを邪魔するの!?」

「いや、別に邪魔してるつもりは……」

「してるよ! 全然本題に入れないし! ……もう、格好付かなじゃん! ……せっかく練習頑張ったのに……」


 これでも僕なりに空気を読んだつもりだったのだが。

 ……確かにツッコミが上手いからボケ過ぎてしまったかもしれないけども。


 少しシュンとする大筆先輩。

 きっと何もつっかえるものがなかったら、それなりにビシッと決まってたんだろうな……。

 

 映画館同様、スマホも僕自分もマナーモードに設定しとくべきだった。


「そんな憐れむような目で見ないで、余計惨めになるから」

「あ、とりあえず連絡終わったんでいいですよ、続きやっても」

「扱い雑じゃない!? ……あーもう、直球で言うね」

「結構このために練習したんじゃないですか? 閉めた鍵の音聞こえなかったし」

「揺さぶらないでよ! そりゃ、頑張って練習したけども……」


 きっとこの人なりに、僕が頼みを聞いてくれるよう頑張ったのだろう。

 それがこんなボロボロにな状態になってしまうとは、涙なしには見てられない。


 大筆先輩はもう意気阻喪(いきそそう)だった。


「とまあ、冗談はこの辺にしといて本題はなんですか?」

「冗談で片づけられた!? ひどい、ひどすぎるよ霜月君! でもまあ、この流れで言いますけどもっ」


 なんとなく部活動勧誘な気もするが、……というか結局部活聞けてないじゃん。

 

 大筆先輩のイメージ通りならば、この同好会は書道か華道か、もしくは茶道だが。

 いずれにしても僕のような面倒くさがり屋には適合しない道だ。


 ……でも、なんとなくどれもかっこいいイメージあるし、入ってみるのも悪くないかもしれない。


 うん、そうだな。新しい自分を見つけるためにも入部するのはありだ。


 色々と検討を重ねている僕に大筆先輩は頭を深々と下げ、全力でこうお願いしてきた。



「オカルト研究会に入って! お願い!」


 ……………………。


 ………………。


 …………。


 ……へ?


「…………オカルト、研究、会、ですか……?」

「そう、オカルト研究会」

「怪物とか、呪文とかを研究するってことですか?」

「そうだよ。怪奇現象とかもだけども」


 マジかよ……この人、オカルト好き? 

 そっか。人は見かけによらないんだな。


 …………。


「……で、それに誰が入ると?」

「霜月君」


 オカルト──神秘的なこと。

 それを研究する会……いや駄目だ、オカルト研だけは絶対に入ってはいけない。


 仮に僕がそんな研究会に入ったとしたら、普通のモブという設定が、授業中オカルト的なことを考えてほくそ笑んでいるモブになってしまう。


 ……いやだ。非常によろしくない。


 大筆先輩ならギャップ萌えという新たな要素になるが、僕の場合、人と話さないのはオカルト的要因があると勘違いされ、いわゆる中二病だと認定されてしまう危険性だってある。


「あー、そろそろ帰りますね」


 そう言って僕は足早に出口に向かい、ドアノブを回す。


 ガチャガチャ。


 そうだった、開かないんだった……。


「あの、帰りたいんですけど……」

「ダメ、霜月君が入部するまで帰さない」

「えぇぇ……」

「ご、ごめん。でも、こっちにも事情があって……」


 僕がわかりやすく嫌な顔をすると、大筆先輩は少し申し訳なさそうな顔になった。

 なるほど。この人、悪い人ではないらしい。


 だが。だとしても。


「僕はここに入りません」

「……なんでか、理由を聞いてもいい?」

「理由はまだない」

「なにその吾輩は猫であるの『名前はまだない』みたいな断り方!? 未だかつて聞いたことないよ!」 


 だって断る理由、ないんだもん。

 でも入ったら面倒だと思うし……。

 

 それについてはさっきから僕の第六感がうるさいほどに僕に告げていた。ここに入れば奇想天外なものに巡り合うことだろうと。


「……わかった。霜月君がそういうことするんだったら、私にも考えがある」

「考え? 一発芸で笑ったら、強制入部とかですか?」

「……私が一発芸するように促すのやめてくれる? こう見えてメンタル豆腐なんだよ? そうじゃなくて──」


 一瞬、一発芸を本気でやろうと思ったのか、大筆先輩との会話が途中切れたが、やるとしたらどんな一発ギャグを披露してくれたのだろう? 

 

 気になるところではあるが、これ以上は尺がもったいないので黙示する。


「も、もし日付が変わっても入ってくれないんだったら学校中に開かずの部室で霜月君と夜を明かしたって言いふらす……からっ!」

「なに入学したての後輩の学校生活終わらせようとしてんですか。……てか、そういうこと言うなら照れずに言ってください」


 早口にセリフを言った大筆先輩の頬は今、明らかに紅潮している。

 ……ていうか日付変わるまでってどんだけ耐久する気なんだよ。

 

 それと慣れてないからツッコミがバシッとは決まらなかった。

 すみません、大筆先輩。


「だ、だって男の子と二人きりの密室だよ? わ、私もちょっと警戒するというか……」

「いや、連れ込んだの大筆先輩ですから。なんで僕が強引に二人っきりにしたみたいな空気になってるんですか」

「と、とにかく! 霜月君はここに入部する運命なの!」


 いつの間にか、僕のツッコミ練習になっているということは置いといて。


 こうなった以上、ここから出るには鍵を大筆先輩から奪う必要がある。

 

 ……でもその鍵の在処はおそらく──。

読了、ありがとうございました。


もしよろしければ、広告下、星の評価【★★★★★】とブックマークをしてくださると、大変嬉しいです。

狂ったように喜びます。

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