図書室と先輩
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図書室は新校舎と、部室棟──つまりは旧校舎を繋ぐ、渡り廊下の手前に存在していた。
一番手前には貸出カウンター。その奥に自主学習スペース、閲覧席、そのまた奥にはズラッと本棚が続いていた。
それはもう『室』と言わずに『館』と言っていいほど、立派で──風格があるものだった。
木造建築という点がさらに魅力を引き出している。
そのどこか心惹かれる空間に見惚れ、唯一無二の本を探すなんてことは、僕の中ではもうどうでもよくなってしまっていた。
僕は図書館へと足を踏み入れる。静かな空間に僕の足音がこだました。
──広い。中学とは比べ物にならないほどに。
入って少し経った頃、とあることに僕は気づいた。
司書の先生がいない。
それどころか生徒がいる気配すらない。
正気か? 僕ならここに住めるぞ。
そんなことを考え、閲覧席の下に荷物を置く。
……静かすぎて逆に落ち着かないな。
なんとなく神聖な雰囲気が漂っているからか、立ち入ってはいけないような気さえしてくる。
自然とよくなった姿勢で本棚でできた路を僕は歩く。
たまに腰を下ろしたり、背伸びしたりして。
本棚でできた壁──行き止まりまでたどり着いたところ。
そこで初めて人を発見した。
黒く、長い髪を紐で縛った少女がしゃがんでいた。
その後ろ姿にどこか既視感がある。
いや、後ろ姿じゃなくて──髪に、か?
心なしか少し懐かしさも感じられた。
あれ、どこだ。どこで僕は? ……というか最近物忘れひどいな、僕。
警告、図書館、少女──こうも連続して忘れるとは。
そう思ってじっと見ていると、少女はゆっくりと立ち、振り返ろうとする。足音で誰か来たと気づいていたのだろう。
上履きの色は黄色。
つまりは一つ上の学年──二年生だ。
それだけ確認して、僕の視線と少女の視線がぶつかる頃。
もうその頃には僕は少女を見ていなかった。
ここで二人きりと言うのも少し気まずい。
さっき気になった文庫コーナーにでも戻ろう。
そう思い来た路へと回れ右をしていたが、
「あ、ちょっと待って! 手伝ってほしいんだけど!」
図書室らしからぬ大声が僕の後頭部にぶつかる。
呼び止められてしまった。
いや、まだだ。まだ僕じゃないという可能性もある。
とは思いつつ、他の人がいる気配は微塵も感じられない。
「君だよ、君! えっと……新入生で身長は平均ぐらいの君のこと!」
どうやら僕のことらしい。
声の方へと振り返ると少女と目が合う。
やっぱどっかで見たことある気がするんだよな……。
「僕、ですか」
「そう、君。えっと、名前は?」
唐突。
「……霜月光です」
「……光」
先輩は僕の下の名前を復唱する。
そりゃ、まあ、見た目とは合ってない名前だけども。
「どうか、しましたか?」
「あ、いや、ごめん。なんでもないよ。霜月君ね。私は大筆美里って言います。悪いんだけどちょっと手伝ってもらってもいいかな?」
「……仕事にもよりますが」
こういうのは断れないのだ。
性格上というより、おそらく遺伝子上。
「大丈夫。簡単な仕事だから。この本を数冊持ってってほしいの。私達の部室に」
本の見た目は……なにやら浮世絵が表紙の本だった。古典か? まあなんでもいいか。どうせ暇だし。
「わかりました。これでいいんですよね」
数冊の本を手に持ち、大筆先輩の後に続く。
本をもって気づいたがやはり大した重さじゃない。
僕が何を言いたいかというと。
大筆先輩、頑張ればこのぐらい持てたんじゃないか? もしかすると頑張らなくても。
ということ。
本当に僕は必要だったのだろうか。
先ほど座る予定だった椅子の横にある僕の荷物を通り際に回収する。
部室棟からは様々な音が響いていた。
楽器の音色、セリフ、歌声──。
そのどれもが違った魅力を放ち、まるでBGMかのようだった。
ふと疑問に思ったことを口にしてみる。
「先輩って何部なんですか?」
古文だから古典部? それとも文芸部だろうか。
「私は同好会だよ。部にするには全然人数が足りないんだよね」
部活動と認められるために必要な人数は五人。なるほど、少数と言うわけだ。
この時の僕は気づけなかった。
質問に対する回答をひらりとかわされていたことに。
理由としては、それよりもここで会話が終了してしまい、己のコミュ力の低さが不甲斐ないと思ってしまったからだろう。
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